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 「当社もDX(デジタルトランスフォーメーション)をせよ!」

 今日もこんな号令が、どこかの企業の役員会議室でこだましている。どこぞのコンサルタントに入れ知恵されたのか、あるいはビジネス誌の影響を受けたのか、社長の鼻息は荒い。

 そして次の瞬間、IT部門やIT職場に丸投げされる。ある企業は「DX推進室」を立ち上げ、またある企業は「DX推進担当者」を任命して(あるいは外部の人材を中途で採用し)、DXなるものをそれらしき形にしようと試みる。そうしないと、社長も株主も納得しないからだ。

 しかし事はそう簡単に運ばない。「DX」といわれても何をしたらよいのか分からない。そもそも「DX」の読み方すらたったいまインターネットで検索して知ったという人もいるかもしれない(「デラックス」ではない)。今回はIT職場を困らせる「DX」という名の魔物と向き合ってみよう。

DXの問題地図
DXの問題地図
(出所:あまねキャリア工房)
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「DX」は思考停止ワードだ

 DXで思考停止するIT職場は少なくない。そもそも、DXとはどのような意味合いなのだろうか。経済産業省はDXを以下のように定義している。

 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

 米Gartner(ガートナー)はDXを「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」の2つに分けて説明している。

 ・デジタイゼーション(Digitization)
  ビジネスプロセスをそのままに、データをアナログからデジタルに変換すること

 ・デジタライゼーション(Digitalization)
  デジタル技術を活用し、ビジネスモデルを変化させて新たな利益や価値を生み出す機会をもたらすこと

 前者は「守りのDX」、後者は「攻めのDX」と表されることもある。デジタイゼーションは既存業務の改善や効率化、デジタライゼーションは従来のアナログベースな仕事のやり方では解決できない課題や問題の解決、あるいは新規のビジネスモデル創出とも捉えられる。いずれにしても、変換や変革、すなわち「変える」行動を伴う。

 要はDXとは、組織変革であり、ビジネスモデル変革なのである。単なるITツールの導入で済む話ではない。