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 今回取り上げる現場の悩みはこちらだ。

ユーザー企業のDX推進部門担当者の悩み
 DX推進部門にいますが、恥ずかしながら「DXとは何か」という定義が自分の中で腹落ちしていません。広義では「ITによる事業や業務の変革」という従来の取り組みの延長といえるかと思いますし、「AIを使った新事業の創造」のようにピンポイントで捉えている社員もいます。定義が曖昧なので、DX推進部門で取り組む領域も明確になっていません。その結果、「主にクラウドを使った業務改善」というハードルの低い取り組みが現在のメインになっています。このままでは大きな変革は望めないと思いつつも、「DXの本質は何か」「DXとして取り組むべき領域はどこか」の答えが見いだせず、もやもやしています。

とにかくトップとの接点と対話を増やすことから

 最初に質問者に問いたい。あなたは、トップや経営陣(担当役員など)とどれだけ対話しているか?

 DXとは組織変革である。経営トップなり、役員なり、部門長なりの「変わる覚悟」と「変える覚悟」がなければ変革を成し遂げることはできない。いま、DX推進部門のあなた(たち)が迷子になっているのであれば、まずすべきはトップとの対話を増やすことである。そして、目指したい絵姿を共有する。筆者はこれを「景色合わせ」と呼んでいる。

トップとして目指したい未来の絵姿は? 解決したい問題や課題は何か?

 DX推進組織のあなた(たち)は、トップの思いや問題意識を知っているだろうか? 聞いたことがあるだろうか?

 対話を通じてトップと景色を合わせる。ときには一緒に悩み、一緒に描く。そのために、DX推進組織はトップや経営陣との接点と対話を増やしてほしい。トップとDX推進組織、それぞれが1人で抱え込み、1人で悩んでいては物事は何も進まない。

 トップとDX推進組織の対話の必要性は、ビジョンや問題意識のためだけにとどまらない。変革は痛みを伴う。いざ進めようとすると、現場の管理職や社員から(ときには役員からも)さまざまな抵抗や反発に遭う。中長期的には人事制度(採用・評価など)の改定も必須である。

 ところが、人事部門が抵抗勢力で変革が進まないケースもある。もはや、DX推進組織の力だけではどうにもならない。そうなのである、変革や改革はボトムアップでは限界があるのだ。トップとDX推進組織が一枚岩になり、抵抗勢力と向き合う。ときに寄り添い、ときにトップダウンの強権発動でもって組織のカルチャーを変えていく。そのためにも、DX推進組織はトップとの距離を縮めておきたい。

 筆者が見聞きしてきた範囲でも、変革が「道半ば」で終わってしまう組織にはある共通点がある。それは、変革推進組織とトップとの接触や対話が足りないことだ。面倒くさがって、あるいは怖がってトップとの対話から逃げる。うまくいくはずがない。まずは、トップの「壁打ち相手」からでも構わない。対話をしよう。

 もちろん、そのためにはトップのマインドチェンジとリスキリングも肝要である。「社内顧客」のような高圧的な姿勢では、DX推進組織はトップと対話したいと思わないし、相互の景色が合う訳がない。かみ合わないのであれば、ファシリテーター役を置くのも良策であろう。

現場のペインポイントに名前を付ける

 では、DX推進組織はトップとだけ対話していればよいかというと、そんなことはない。事業部門、管理部門など現場の管理職やメンバーとの対話ももちろん重要である。

 現場の人たちの多くはDXなどと言われてもピンとこない。忙しくて聞く耳も持ってもらえない。

 無理もない。四半期や単年度スパンでの成果主義、KPI主義が皆を悪気なく近視眼的にしてしまったからだ(もちろん、理由はそれだけではないが)。一方で、DXのような変革や改革は中長期を見据えた息の長い取り組みである。短期的に成果を出させるマネジメントやマインドとそもそも相性が悪いのだ。筆者が、DXの成功には人事制度(採用・評価など)の改定が必須と述べた意味はそこである。