DX、デジタルトランスフォーメーション。
この言葉を見聞きしない日はない。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が刊行した『DX白書2021』によると、約56%の日本の企業がDXに取り組んでいることが明らかになった。米国(約79%)に比べ大きな差があるとはいえ、DXが一種のブームであるのは間違いない。
経営者の危機意識や変革マインドでもって、株主や投資家からの圧力でもって、あるいは現場自らのチャレンジマインドから――理由はどうあれDXに取り組む企業は増えている。
DXをIT部門に丸投げ、「しかし何も起こらなかった」!?
DXは現場丸投げではうまくいかない。いくはずがない。なぜなら、DXとはビジネスモデル変革であり経営変革であるからだ。経営が覚悟を決め、ある意味で強権をもってして組織全体を変えていかないことには、現場の抵抗や既得権益の壁を突破できず中途半端なIT化で終わってしまう。にもかかわらず、DXを特定の部門や急ごしらえの社内横断組織に丸投げする組織が後を絶たない。
なおかつ、既存のIT部門に丸投げするのがこれまたうまくない。
「何をおっしゃる。当社はDXに熱心に取り組んでいます。社長も本気です。その証拠に、IT組織の強化とIT人材育成に投資し権限委譲も進めています。丸投げとは心外です」
こういう反論が返ってくるかもしれない。確かにDXが追い風となり、IT部門やIT人材に投資する事業会社も増えてきた。
- CIO職を設置。経営の意思決定にIT部門の責任者が関与
- プログラミングなど技術研修を実施
- 外部からIT技術者や有識者を積極登用
このように、IT部門の権限を拡大しつつ「事務屋IT部門」から「技術屋IT部門」の変革に注力し始める。それ自体は喜ばしい傾向である。いかんせん、日本の組織、とりわけ事業会社におけるIT組織のプレゼンスはこれまであまりに低すぎた。
ところが、それだけでは何も変わらない。
- CIO職を設置したものの、経営会議で発言権がない
- ITの知識は身についたものの、使い道が分からない
- 外から来た有識者に「塩対応」を浴びせ、無力化する
いずれも、本連載でこれまでも強調してきた通りである。なぜIT部門にDXを任せようとしてうまくいかないのか? 冒頭の筆者の言葉に立ち返ってほしい。
そう。DXとはビジネスモデル変革なのである。ここで読者諸氏に問いたい。
貴社のIT部門は、ビジネスをしたことがあるか?
貴社のIT部門は、変革をしたことがあるか?
すべてはここに帰結する。