今回取り上げる現場の悩みはこちらだ。
システムインテグレーター(SIer)でクラウドサービスやコンテナなどを使った基盤構築を担当しています。ユーザー企業からの受託開発が中心です。私の所属部署では近年、先輩のエンジニアが転職のために辞めるケースが少なくありません。辞めていくのは優秀な人が多く、転職先としてよく聞くのは大手ユーザー企業や大手クラウドベンダーです。
今所属しているシステムインテグレーターに大きな不満はありません。基盤構築の経験を日々積んで自分の実力が伸びているのを実感しており、手応えを感じています。ただ、優秀な先輩が転職していくのを見ると、別のキャリアを考えてもいいのかもしれないと思うようになりました。今は待遇よりも実力を伸ばすのが重要だと思っています。システムインテグレーター、ユーザー企業、大手クラウドベンダーはエンジニアの実力を伸ばすうえでそれぞれどういう位置付けになるのか思案しています。

質問者は今の環境に大きな不満はないということで何よりである。できることなら、焦って転職することなく着実にキャリア形成をしていくに越したことはない。
何ごとにもメリットとデメリットがあるように、システムインテグレーター、ユーザー企業、大手クラウドベンダーそれぞれにメリットとデメリットがある。
もちろんそれらのメリット/デメリットは会社の規模、ビジネスモデル(BtoBかBtoCか、直取引モデルか代理店モデルか、内製率の高さなど)、社風などにより左右される部分も大きい。職種によっても、メリット/デメリットの捉え方は異なる。バックオフィスの人たちにとってキャリア形成しやすい業態の企業が、技術者にとってキャリア形成しやすいとは限らない。その逆もしかりである。従って、システムインテグレーターだから、ユーザー企業だから、大手クラウドベンダーだからとメリット/デメリットを一義的に定義できるものではない。
今回、筆者の体験と見聞から捉えた傾向、なおかつ基盤構築を担当する技術者のキャリア形成の観点で見解を述べる。あくまで「一つの見方」として参考にしてほしい。
ところで「優秀な先輩が転職していく」ということだが、質問者の諸先輩がどんな理由で転職していったのか? 転職先でどのように活躍しているのか? 可能であればぜひ本人たちと対話して聞いてみてほしい。同じ企業・同じ職場にいた卒業生の話はリアリティーがあるからだ。
システムインテグレーターのメリット/デメリット
大手システムインテグレーターで働くメリットは何といっても大規模プロジェクトに参画できる経験を得られることであろう。
もちろん、ビジネスモデルや商流、案件の特性による部分もあるが、大手のシステムインテグレーターであればあるほど大きな案件に関わることのできるチャンスは多い。
また触れることのできる技術のバリエーションも豊富だ。メーカー系のシステムインテグレーターは自社製品の縛りがある場合があるが、いわゆる独立系システムインテグレーターであればそれが少ない。特定のベンダーの製品やサービスに縛られることなく、さまざまなサービスや技術に触れやすい。研究開発目的で実験をすることも可能だ。
「とはいえ、システムインテグレーターのプロパーの役割は調整でしょう。現場で手を動かすことなどできないのでは?」
こんな質問が返ってくるかもしれない。確かにシステムインテグレーター=ゼネコンの側面も色濃い。一方で、顧客のフロントに立ちながら上流からプロジェクトマネジメントをできる経験は、間違いなく技術者の視座を上げて視野を広げる上でプラスに働くし、将来のキャリアの可能性も広げることができる。その経験は、2次請け、3次請けの中小IT企業やフリーランスの立場ではなかなか積めない。
その気になれば(やる気と交渉力次第で)現場に入って自ら手を動かすこともできる。自社で商用データセンターを構えているシステムインテグレーターであれば、それこそ一人称で基盤設計や構築、保守・運用に関わることができる。
デメリットは、そうはいってもプロジェクトや立場によっては調整と折衝業務に追われすぎてしまいがちになること、そして油断をすると下請けマインドが染みつきがちなことである。
大手のシステムインテグレーターであってもビジネスモデルの構造上、どうしても顧客の下請けの立場になりやすい。そのため、主体的にビジネスを構築したり、要件を定義したり、技術選定をしたりといった経験ができない可能性もある。やはり一人称で仕事を進める経験は、ユーザー企業にはかなわない。