「Slackダメ、Teamsダメ、Zoomもまったく使われねぇ」
こんな嘆きとともに、旧態依然とした企業からのイノベーティブな人材の流出がとまらない。それもそのはずである。
「オープンイノベーションせよ!」 「当社もDX(デジタルトランスフォーメーション)だ!」
経営陣による号令の下、企業を超えたコラボレーションが始動する。担当者がアサインされ、同じテーマのもとに複数の企業、あるいはフリーランスなど組織「外」の有識者を集い、新たな取り組みを試みる。環境変化や技術革新が激しい時代、新型コロナウイルスのような不確実なリスクが増大する時代、自組織単独で事業を継続したり新たな価値創出を行ったりすることはいよいよ難しくなりつつある。そこで、組織を超えた取り組みでイノベーションを実現する。この発想自体は健全である。
しかしながら次の瞬間、コラボレーション担当者は極めて現実的な壁に直面する。
仮に、いまここで5社(者)によるオープンイノベーションのプロジェクトが立ち上がったとしよう。登場人物は、大企業A社、大企業B社、大企業C社、ベンチャー企業D社、フリーランスE氏。
大企業A社の担当者の力強い巻き込み力とけん引により、テーマに賛同する4社(者)が参集、キックオフミーティングを開催することとなった。
議論は順調に進み、ビジョン、目指すゴール、今後の進め方のイメージとマイルストーン、各社(者)の役割分担など次から次に決まっていった。後は、プロジェクトメンバーの今後のコミュニケーション方法を決めるのみ。そこで事件が起こった。
「Slackを利用しませんか。私がワークスペースを立てますので」
D社のメンバーが真っ先に手を挙げた。D社はほかにも企業間コラボレーションのプロジェクトを複数走らせており、Slackを使ってコミュニケーションを円滑に行っているという。
「いいですね。Slackにしましょう」
フリーランスのE氏も乗り気だ。移動やミーティングの多いE氏。スマートフォンでもやり取りをしやすい、Slackのようなコラボレーションツールはありがたい。
「では、今後のプロジェクトのやり取りはSlackでしましょう」
合意形成を図ろうとするA社のメンバー。ところが、B社のメンバーが異を唱えた。
「Slackですか……。すみませんが、当社はTeamsしか利用が認められていないのです。Teamsでお願いできますでしょうか?」
申し訳なさそうに頭を下げる。では、Teamsでやりましょうという雰囲気になりかけたものの……
「あの、大変言いにくいのですが……ウチは外部とのやり取りは電子メールしか認められていないのです。メールでお願いできませんか?」
C社のメンバーのまさかの発言。プロジェクトの盛り上がってきたテンションが一気に下がる。