経営者:「インフラも見ることができる、良いITエンジニアがなかなかいないんですよ」
ITエンジニア:「インフラ? 勘弁してください。二度とやりたくありません……」
これは、経営者とITエンジニアの間に見られる乖離(かいり)である。筆者の経験では、特に「地方都市」でこの傾向が強い(具体的な都市名を挙げると無用な波紋を生み前向きな議論が進まないため、あえてぼかすことをご理解いただきたい)。
両者の溝はどのようにして生まれるのか、どう向き合うべきか。今回はこのテーマについて考えてみたい。
「開発ありき」「作ってなんぼ」、そもそもインフラ業務が認知されない
Webサイトやアプリケーションを作っておしまい。サーバーやデータベース、ネットワークなどバックエンドのことは気にしない。あるいは意識から漏れる。いわば、「フロント重視」「バックエンド軽視」の状況を悪気なく作り出す。
その背景には「見えないものを見ようとしない文化」が見え隠れする。
アプリケーションの開発業務は分かりやすい。画面などの成果物がエンドユーザーにも見えるので認識されやすいからだ。
一方、インフラの構築や維持運用などバックエンド業務は認識されにくい。無理もないことだ。飛行機を利用している人で、運行管理システムやバックヤードの物流の仕組みにまで意識が向く人がどれだけいるだろうか。
「インフラ?意識していなかった」
「開発するついでにお願い」
「インフラの維持運用はタダでやって当然」
このように、オマケ扱いでインフラ業務をベンダーに押し付ける顧客、あるいはIT担当者に押し付ける経営者があとを絶たない。ベンダーはシステム開発の案件欲しさにほいほい受けてしまう。
「開発ありき」の組織文化では、システムの保守性や拡張性などは考慮されない。開発メンバーは納期に追われて、あとあと運用しにくく変更しにくいシステムを作る。ドキュメントは残さない。こうして、後工程やライフサイクルが考慮されない「その場しのぎ」のシステムが量産される。
この問題は、過去の記事『システムの「作り逃げ」を許すな、運用保守を担う技術者の時間が奪われる』で存分に語った。時間が許せば、ぜひ再読いただきたい。
それでも都市部の大企業では、インフラ業務に対する理解や市民権が得られやすい。比較的大規模なシステムを扱っていることから、インフラの重要性が認識されやすいからだ。
一方で地方都市の企業の多くは、ビジネスの規模感やサイズ感が小さいため、インフラを意識しなくても初めは何とかなる。しかし「フロント重視」「バックエンド軽視」な仕事のやり方は、後の負債となってIT職場の担当者はもちろん、経営者にも重くのしかかる。
「ついで扱い」で「評価されない」仕事は誰もやりたがらない
「ついでにお願い」レベルの仕事に、顧客も経営者も投資しない。その結果、開発をしながら、あるいは1人の担当者がサーバーもミドルウエアもネットワークもPCも……といった「1人インフラ担当」が常態化する。ひどい組織では、事務員がインフラ担当者を兼任していることもある。
いや、「兼任」の認識があるならまだマシなほうだ。ITインフラ業務は「雑務」として扱われ、業務の存在すら認識されない。
当然ながら、インフラのプロは生まれないし育たない。ますますインフラの維持・運用が言語化されず、業務として認知されなくなる。投資も評価もされなくなる。インフラ業務を1人が抱え込むことで、属人化のリスクも高くなる。負のスパイラルだ。
正当に評価されない仕事は、やがて誰もやりたがらなくなる。