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 会社のビジネスチャットの「いいねボタン」が相手に失礼だからと全面禁止になってしまった――。

 こんな趣旨のツイートがTwitterに投稿され、物議を醸している。「意思はしっかり言葉で表しなさい」「それがあるべき姿だ」が会社側の姿勢とのことだ。

 会社側の気持ちは分からないでもない。しかし筆者はこの会社の行動、およびこの企業の組織カルチャーは極めて残念であると断言する。デジタルトランスフォーメーション(DX)やイノベーションが叫ばれる時代において、危機感のかけらもない。こんな考えの古い経営陣や人事部門、情報システム部門がのうのうと存在している事実が、日本人として恥ずかしい。

ビジネスチャットのスタンプ使用禁止の問題地図
ビジネスチャットのスタンプ使用禁止の問題地図
(出所:あまねキャリア)
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 ビジネスチャットの「いいね」を全面禁止する。そのやばさを、生産性、スキル&マインド、カルチャーという3つの観点から徹底的に指摘したい。

コミュニケーション効率と生産性が大幅にダウンする

 スタンプ利用禁止はコミュニケーション効率を大幅に下げる。ビジネスチャットのメリットを台無しにするといってもよい。

 ビジネスチャットの「いいね」をはじめとするスタンプ機能は一つの操作で意思表示できる大変便利な機能である。同意の意思表示はもちろん、相手のメッセージを読んだことを示す「既読」の意思表示もスタンプを押すだけで手軽に行える。

 外出が多く忙しいビジネスパーソンであるほど、ミーティングや移動の合間のちょっとした時間にスマートフォンなどのモバイルデバイスで意思表示できるメリットは計り知れない。皆が皆、オフィスや自宅のパソコンにかじりついているとは限らない。すぐに返答のメッセージを打つことができるとは限らないのだ。

 相手がどこにいるかにかかわらず、速やかに複数人の意見を集約したりスケジュールを決めたりする場合も、スタンプ機能は威力を発揮する。

「賛同される方は『いいね』か『超いいね』スタンプで意思表示してください」
「都合がいい方は『いいね』、都合が悪い方は『悲しいね』で回答してください」

 こんなメッセージを打つだけで済む。賛同状況と回答状況の確認も楽だ。スタンプ機能を駆使すれば、作文の手間がなくなり返信を待つタイムラグが短くなる。相手の回答を待つアイドリング時間も短縮できる。すなわち、組織のコミュニケーションと意思決定が格段に速くなるのだ。