筆者の周りには、IT職場の存在感のなさを嘆く人が実に多い。そんななか、IT職場の認知度や地位向上を目指す管理職が増えてきた。それ自体は素晴らしいことである。
社内外から見て、存在感がある組織にこそ、優れた人材が集まり、質の高い仕事ができる。少子高齢化による労働力不足が加速するこれからの時代、どんな職種であれ、組織の存在感の大きさはマネジメントサイドの重要な課題になる。
だからといって、単に「IT職場の地位向上!」と叫んでみたところで、どうにかなるものではない。IT職場の存在感の低さには、長い年月をかけて醸成された独特の組織風土が大いに関係している。筆者の感覚では、存在感がないIT職場には共通点がある。
ズバリ、「近寄りがたい」のだ。業務部門からすると、IT職場で働く人たちとのやり取りは避けて通りたい。できれば関わりたくないと思えてしまう。その裏には、2つの根深い問題があると思われる。
費用対効果の質問ばかりされ、相談する気が失せる
業務部門は常に、ビジネス課題を抱えて困っている。無駄な仕事は減らしたいし、業務スピードは上げたい。当然、売り上げや利益は伸ばしたいし、変化が激しい市場環境や法制度の変更には素早く対応したい。
ほかにも今なら、時間や場所を選ばずに仕事ができるテレワーク環境を用意してほしい。もっといえば、経営陣が現場に押し付けてくる「イノベーション」を起こしたい。
何をするにせよ、今どきの仕組みにITは欠かせない。そこで業務部門はIT職場の担当者に相談に来る。「私たちの課題をITのチカラを借りて解決したい」と。
ところが、IT職場の人たちの多くは「クール」にこう言い放つ。「費用対効果は?」。
会社のお金を使う以上、費用対効果の確認は必ず求められる。組織の一員として、極めて合理的な問いかけではある。
しかし、相談してきた相手と一緒になって悩むわけでもなく、何とかできないかと知恵を絞るわけでもなく、紋切り型にいきなり費用対効果の話を持ち出されたら、どう思うか。業務部門は二度と相談する気にはならないだろう。業務部門から見るとIT職場の担当者は、控えめに言っても面倒くさい人たちなのだ。
「だったら、自分たちで何とかするよ」「イケてるITベンダーを自分たちで探してくる」となるのがオチだ。わざわざ、費用対効果ばかり尋ねてくるIT職場の人たちに頭を下げ続けることはしない。業務部門は社内のシステム担当者に見切りをつけ、せっせとシャドーITに走り出す。
IT職場側の人のなかには、時に「仕事を断るための口上」として費用対効果という言葉を口にする人がいるのでタチが悪い。こうした人には「私たちは目先のシステム開発・運用で手一杯だ」という心理が強く働いている。
だが新しい仕事を拒み続け、今の仕事のやり方や技術を変えずに塩漬けのままでは、いつまでたってもIT職場の技術力や問題解決力は向上しない。