本連載では隔回でITエンジニアの悩みに答えている。今回はビジネスチャットでの雑談に関する悩みを取り上げる。

「テレワークで雑談が減った」。このお悩み、ほぼ毎週のように企業の管理職やメディアから相談をいただくいわば「頻出フレーズ」である。テレワークとオフィスワークのハイブリッド化に伴い、メンバー同士あるいは上司と部下、お互いの様子が分かりにくくなった。雑談がなくなった。気軽なコミュニケーションができなくなった。
筆者自身も雑談は好きであり、どちらかと言うと率先して雑談を仕掛けるほうである。組織開発の観点で、筆者は雑談には3つのメリットを感じている。
(1)相互理解が深まり「ヘルプシーキング」しやすくなる
(2)問題・課題解決、新たなアイデアの創出
(3)「ヒヤリ・ハット」を防ぐ
「ヘルプシーキング」とは文字通り、助けを求める行為である。テレワークなど働き方の多様化、複業人材の登用やプロジェクト型の仕事の増加など、空間や時間や所属会社を必ずしも共にしない人たちとチームを組んで成果を上げることが求められる時代だ。時間や働く場所に関わらず、正しく助けることのできる環境づくりはリーダー・サブリーダーの重要ミッションの1つといっても過言ではない。
お互いが何者か分かっているチームに対して、メンバーはヘルプシーキングしやすい。雑談はいわば「同じ釜の飯を食ってこなかった」人たちとの相互理解や、「このチームだったら助けてと言える」心理的安全性のある環境をつくるきっかけであり、潤滑油と捉えることができる。
問題や課題の解決、新たな価値創造も生まれやすい。筆者自身、ちょっとした雑談から意気投合し、そこから新たなコラボレーションによるビジネスが生まれた成功体験はたくさんある。
コンプライアンスやガバナンスの観点からも、雑談は有効である。いわゆる「ヒヤリ・ハット」も、日ごろから雑談などを通じて相互の信頼関係が構築されているチームの方が共有されやすい。
「この忙しい時に、そんなつまらないことを報告してくるな!」 「あなたはこんなことも、自分で解決できないの?」
そう上司からマウンティングされた瞬間、部下は二度とこの上司には報告するまいと思うであろう。こうして、ヒヤリ・ハットやちょっとした気づきは組織に共有されなくなる。
とはいえ、雑談を過信し過ぎるのもまた問題である。テレワークにより「無駄な雑談が減って助かる」と言う人も少なくない。
「話しかけられることが少なくなったのはありがたい。自分の仕事に集中できる」
「話し声が気になって、オフィスでは気が散る。意識的にテレワークをしている」
「私は趣味がない。趣味の話で盛り上がると、どうもきまりが悪い……」
「自分は雑談が得意ではない。特に自分から仕掛けるのはものすごく気を遣う」
このような声も聞く。
そもそも、あなたのチームに雑談は必要なのか? 必要だとしたらどれくらいの頻度、手段、タイミングで行うのがよいのか? 雑談の目的とTPOを見直す必要があるかもしれない。