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 「PPAP」という言葉をご存じだろうか。お笑い芸人が展開しているあの楽曲のことではない。

 ここで言う「PPAP」とは、「Password付きzipファイルを送ります、Passwordを送ります、An号化(暗号化)、Protocol(プロトコル)」の略。電子メールの添付ファイルをzip形式に圧縮してパスワードを付与し、パスワードを記したメールを追送するビジネス慣習を言う。読者諸氏のもとにも、「PPAP」方式で添付ファイルが送られてくるケースがあろう。

 このPPAP、政府が開設した「デジタル改革アイデアボックス」にも廃止を求める提言が投稿されるなど注目を浴びている。PPAPは、セキュリティー対策の名の下に多くの企業が取り入れているものの、効果は極めて限定的。それどころか、むしろセキュリティーリスクを高める行為であるとさえ専門家から指摘されている。

PPAPをやめない日本のIT職場の問題地図
PPAPをやめない日本のIT職場の問題地図
(出所:あまねキャリア工房)
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PPAPは生産性やビジネススピードの足かせになる

 PPAPの、生産性や業務効率における問題点は大きく3つだ。

(1)余計な手間を発生させ、ビジネススピードも下げる

 PPAPは、ファイルを送る側、受け取る側の双方に余計な手間をかける。個人情報が含まれるような機密情報であればさておき、そうでないファイルまで何でもかんでもPPAPで送信するのは考えものである。

「パスワードは別送します」
「あの、パスワードが届かないのですけれど……」
「すみません、忘れていました!」

 こんなケースも散見される。パスワードが届かずにアイドリングしている時間、相手の意識のリソースや集中力を無駄に奪う。送り手が添付ファイル付きのメールを送ってきて、パスワードを送付せずに外出または帰宅してしまった。その場合、受け手は中身を見られずモヤモヤしたまま時を過ごすことになる。その間、仕事が進まないのも問題だ。

(2)モバイルデバイスで閲覧できない

 zip圧縮されかつパスワードが付与されたファイルは、スマートフォンなどのモバイルデバイスから開封・閲覧しにくい。これは、出張や移動が多い人にとって大きな足かせになる。リモートワークの浸透で、オフィス以外の場所からモバイルデバイスで仕事をする人も増えてきた。すなわち、PPAPはリモートワークの阻害要因にもなり得るのだ。

 筆者も会議や出張が多く、会議の合間の休憩時間に、あるいは移動の合間に高速道路のサービスエリアなどからモバイルデバイスでメール対応することも多い。その際、PPAPに大変難儀している。すぐ回答したくても、回答できない。

 相手は、いつもパソコンの前で仕事をしているとは限らない。大して秘匿性のない添付ファイルを開くために、わざわざパソコンを開かせたり、あるいはそのためだけにパソコンがある場所に移動させたりするのはいかがなものであろうか。これは昨今、社会問題になりつつある「書類にハンコを押すためだけにわざわざ出社させる」行為にも似ている。