キキ―ッ、ガタッ!。大きな音とともに突如、1台の車両が飛び込んできた。4、5人がぶつかって倒れこむ。車両から工作員とみられる男が降りたと思いきや、周囲の人にボールのような物体を投げつける。投げつけられた人も倒れ始めた。投げつけたのは化学物質のようだ。
これは東京消防庁が2018年2月に開いた災害訓練の様子である。東京五輪を見据え、大規模なスポーツイベント時に化学テロが発生した状況を想定している。車両が突っ込んだのはマラソン競技のゴールを模した地点だ。飛び込んできた車両や工作員、倒れた人などはすべて演技だ。
訓練の内容は東京消防庁の報道発表資料によれば「マラソン大会を標的とした車両突入及び化学剤散布による意図的な複合災害が発生したもの」を想定している。警察や医療機関など複数の組織・チームが連携して訓練した。
マラソンは数あるスポーツの中でも、狙われやすい競技の1つだといえる。競技者や観衆、運営スタッフなどが会場に詰めかけているためだ。東京五輪ではマラソンのコースは都内に設けられており、重要施設などに比べて警備が比較的緩い「ソフトターゲット」といえそうだ。実際、2013年には米国マサチューセッツ州のボストン・マラソンで爆弾テロが発生した。
16台保有する「ドローンチーム」
マラソン競技中にテロなどが起こったとき、状況把握や情報共有の役割を担うとして期待されているのがドローンである。「空からいち早く現場の状況を把握できる」と損害保険ジャパン日本興亜保険金サービス企画部の高橋良仁技術部長は説明する。同氏は東京消防庁の訓練で状況把握を狙いとしてドローンの操縦を担当した。
高橋技術部長が所属する保険金サービス企画部の損害調査企画室では、ドローンを使った現状把握の取り組みを進めてきた。もともとは自動車事故や地震、豪雨などの災害時に現状をいち早く調査するのが目的である。社内では通称「ドローンチーム」と呼ばれ、中国DJI製の機体など16台を保有している。