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 2020年の東京五輪。開催国として安全を守るのは「義務」だが、昨今では爆弾などを使った物理的なテロ攻撃は、民間人が多数集まる「ソフトターゲット」を狙ったものが増えている。従来より高度な警備体制が必須になってくる。

 特集「狙われるニッポン 先端技術で守れ」ではこれまで、東京五輪で実施される屋外競技の代表格であるマラソンの選手や観衆をどう守るかについて、過去2回の「東京マラソン」の警備例などを基に検証した。

 今回は、大半の競技が開催されるスタジアムや体育館といった、屋内施設の警備を見ていこう。マラソンと同様に、監視カメラや警備員のウエアラブルカメラ、撮影した映像を用いたAI(人工知能)による画像認識などを組み合わせたシステムは、屋内にもそのまま適用できる。

 屋内外にかかわらず、AIに“あやしい人物”の画像を学習させて、不審者を見つけることは不可能ではなくなった。ただ、そもそもあやしい人物の画像は極端に少ないため、AIが賢くなるための学習データを用意しにくいという課題が残っているのも事実だ。あやしい人物の動きを、警備する側で再現してでも学習データを作り込んで、2020年までにはAIに正しく学ばせるといった工夫が必要になるかもしれない。

 こうした課題も踏まえつつ、今回は屋内警備の最新事情に焦点を当ててみよう。屋内の場合、施設という限られた場所に大観衆が詰めかけるという特性がある。マラソンのように競技エリアが広域ではないものの、屋内には密閉空間に特有の「人の密度の高さ」による危険性や、建物そのものを狙ったテロといったリスクが潜んでいる。

 例えば、爆弾テロは観衆が押し寄せ、街中でも特に目立つ場所が標的にされる可能性が高い。2015年11月にフランス・パリのサンドニ競技場で、フランス代表とドイツ代表によるサッカーの親善試合中に自爆テロが起きた事件は記憶に新しい。東京五輪でいえば、現在建設中の「新国立競技場」はターゲットの候補になると考えるのが自然だろう。こうした競技場の観客席や通路は、数万人の観衆でごった返す。そんな場所に爆弾が仕掛けられたらと考えるだけで、ゾッとする。

 観衆に紛れ込んで、施設内に不審物を持ち込む人を見分けるのは容易ではない。東京五輪の会場では空港のように、入場ゲートで手荷物とボディチェックをする保安検査を行うことになるのだろうが、もしそこをくぐり抜けて爆弾などの危険物が場内に持ち込まれたら、どうするか。