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 警備業界首位のセコムと2位の綜合警備保障(ALSOK)が異例のタッグ――2018年4月3日、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、セコムやALSOKなど複数の民間警備会社で構成される「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体」(以下、東京2020大会警備JV)を設立するというニュースは、世間の大きな耳目を集めた。

強力なライバル同士がタッグを組んだ。写真は「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体」設立会見の様子。左がセコム代表取締役社長の中山泰男氏、右がALSOK代表取締役社長の青山幸恭氏(写真:セコム提供)
強力なライバル同士がタッグを組んだ。写真は「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体」設立会見の様子。左がセコム代表取締役社長の中山泰男氏、右がALSOK代表取締役社長の青山幸恭氏(写真:セコム提供)
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 日頃はしのぎを削り合うライバル2社が手を組んだ背景には、警備業界の深刻な「人手不足」がある。直近の有効求人倍率は8倍を超える。しかも、東京2020大会では、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県などに散らばる各競技会場において、多くの警備員を配置する必要がある。2013年に公表された大会開催計画文書「立候補ファイル」によると、東京2020大会では1万4000人が民間警備員として従事するとされている。東京2020大会は、競技施設を集約した「オリンピックパーク」が存在しないほか、公道を使う競技も数多く行われることから、多数の警備員が必要になる。

 この警備業界の“一大事”に対応するため、セコムとALSOKが東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と協議を重ねた上で誕生したのが東京2020大会警備JVだ。同JVには両社を含め、民間の警備会社14社が参加。東京2020大会の各競技会場・非競技会場などにおける警備業務を受託する予定だ。主な業務内容としては入場者の手荷物検査などのセキュリティーチェックのほか、巡回警備、交通誘導などの人的警備が想定されている。

そもそも人材がいない

 もっとも、JVを設立したからといって、警備業界の人手不足と高齢化の問題が即座に解消されるわけではない。そこで期待されているのが、スタジアムやアリーナなど屋内競技施設の巡回警備を担う「警備ロボット」の活用だ。セコムやALSOKなどが独自に開発を進めており、東京2020大会を警備ロボットの普及の契機にしたい考えだ。

 警備ロボットは米ハリウッドのSF映画にあるように、高速に移動して犯人を自ら追跡したり攻撃したりするものではない。本当に役立つのか疑問に思う読者もいるだろう。

 しかし、そもそも警備員が足りない中で「巡回警備を効率化」できるメリットは大きいと両社は考えている。「ロボットだけに任せることはなく最後は人間が確認する必要があるが、ロボットの配備は犯罪の抑止力になるほか、固定の監視カメラや人間の目の死角をつぶせる効果がある」と、セコム 執行役員技術開発本部長兼開発センター長の進藤健輔氏は言う。

 固定の監視カメラの設置場所は事前にチェックできるため、犯罪者が自らの映像を撮られないよう避けることができる。対して、警備ロボットは移動しながら人の目線の高さなどから撮影するため、固定カメラの死角をつぶせる。その存在が見えるだけでも犯罪の抑止力になる。加えて、警備員では手が出せない爆発物など危険物の探知も担える。

 ロボット導入の経済性についてセコムは「建物は24時間・365日警備しなくてはいけないので、一般には警備員が5人必要と言われている。人件費を含めて1人当たりのコストを年間1000万円とすると、ロボットを導入するメリットは大きい」(コーポレート広報部)と言う。ALSOK 開発技術部の倉本哲生氏(機器開発室機器開発第一課課長)は「警備ロボットによる省力化の効果は大きい。通常5人の警備員を『4人+ロボットにしませんか』という提案をしている」と話す。

 警備ロボットというコンセプト自体はかなり以前からあるが、世界的に見ても導入例はまだ少ない。米国ではNTTドコモ・ベンチャーズなどが出資する米ベンチャーのKnightscope(ナイトスコープ)が開発した自律走行型のロボット「K5」が、米国のショッピングセンターや企業の敷地内など複数個所で採用されているが、こうした事例はまれだ。東京2020大会は、警備ロボットという黎明期の市場で日本が世界をリードするチャンスなのだ。

米Knightscopeの自律走行型警備ロボット「K5」。4個のカメラを内蔵する。それぞれのカメラが駐車場で車のナンバープレートを1分間に300個分を読み取ってブラックリストを作る機能を有するという。最高時速4.8kmで移動する。高さ1588mm×幅850mm×奥行き914mm、重さは180kg(写真:Knightscope)
米Knightscopeの自律走行型警備ロボット「K5」。4個のカメラを内蔵する。それぞれのカメラが駐車場で車のナンバープレートを1分間に300個分を読み取ってブラックリストを作る機能を有するという。最高時速4.8kmで移動する。高さ1588mm×幅850mm×奥行き914mm、重さは180kg(写真:Knightscope)
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