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 自動車が建物に衝突しても、構造上の安全性は確保できるのか――。そんな疑問に答える技術的な検討成果がある。

 日本建築学会が2015年に出版物としてまとめた『建築物の耐衝撃設計の考え方』だ。01年に米国で発生した同時多発テロや、11年に起こった東日本大震災による福島第一原子力発電所の水素爆発などを踏まえ、衝撃力を考慮した構造設計手法を整理した。

 資料をまとめた同学会の衝撃低減対策小委員会で委員を務める向井洋一神戸大学准教授は、取り組みの経緯を次のように語る。「建物に発生するリスクが変わってきた。昔に比べて衝突や衝撃について考える必要性が高まっている」。資料では衝撃力のなかでも事故に焦点を当てている。だが、その考え方はテロ対策にも応用可能だ。

 資料で衝突を想定したのは、自動車、脱線列車、小型飛行機、ヘリコプター、フォークリフトの5つだ。ユーロコードと呼ばれる欧州構造基準(Structural Eurocodes)を参考にした。米国での同時多発テロ以降、航空機の衝突に対する関心が高まったので、ユーロコードで対象としている船舶の代わりに小型飛行機を対象に加えた。

 ここでは、日本建築学会が衝撃力について想定したシナリオのうち、発生確率が比較的高そうな自動車の衝突による事故を想定したシミュレーション結果を紹介する。

4階建てビルにトラックが突進

 衝突事故を想定したのは、幹線道路沿いに立つ鉄骨造4階建てのオフィスビルだ。郊外で道路の混雑が比較的少ないエリアであれば、高速で飛ばす車は決して少なくない。そうしたエリアに立地するビルとしては、珍しくない規模だと考えられる。

 階高3.5mで建物高さ16.8mの4階建てビルは、建築基準法を満たす標準的な仕様だと設定した。1階の柱に400×400、SN400BのH形鋼を採用し、その間隔を6~12mとしている。建物の保有水平耐力は2756.7kNだ。

 シミュレーションでは、道路と建物の立地関係などを考慮して、衝突事故が起こりそうな柱と車両の種類、衝突速度の条件を決めていった。

車両衝突を想定した荷重の検討フロー。最初に事故の詳細を想定し、設計荷重を決める。車両が衝突する構造部材そのものを評価して、損傷が大きい場合には、その柱が損傷した状態で建屋全体の構造評価に進む(資料:日本建築学会の資料を基に日経 xTECHが作成)
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車両衝突を想定した荷重の検討フロー。最初に事故の詳細を想定し、設計荷重を決める。車両が衝突する構造部材そのものを評価して、損傷が大きい場合には、その柱が損傷した状態で建屋全体の構造評価に進む(資料:日本建築学会の資料を基に日経 xTECHが作成)