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 食文化は一般に食卓やキッチンから見えてくるが、人が移動する手段となるクルマからも食文化は見えてくる。移動しながらおいしい料理店を探すときや、料理を配達(デリバリー)するとき、移動販売で料理を提供するときなど、クルマは人々の便利な移動手段となるだけではなく、食文化に多様性をもたらすなど大きな影響を与えている。配車サービス大手の米ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)は日本で料理のデリバリーサービスを始めた。料理デリバリー大手の中国メイトゥアン(Meituan、美団点評)は逆に配車サービスに参入した。自動運動の時代が徐々に近づいてきているが、そうした時代が到来したとき、食文化を含めて我々の生活にどんな影響を与えるのか――。今回は、車輪と食文化のつながりについて考察したい。

自動車社会の到来とミシュラン

 1890年代前半、フランスに本拠地を持つミシュラン(Michelin)は、発明されたばかりの自動車で使える空気入りタイヤの実用化に成功した。以来、同社は長年にわたり世界トップレベルのタイヤの生産規模と技術力を誇っている。同社のタイヤは、世界中の幅広い国や地域の自動車、自動2輪車、飛行機、自転車で使われている。しかし、世の中でよく知られているのは、Michelinのタイヤではなく、料理に関する「ミシュランガイド」だ。

 ミシュランガイドは、Michelinの創設者のMichelin兄弟がいち早く自動車社会の時代が到来することを確信し、1900年に同社の製品の宣伝を兼ねて自動車の運転者に有益な情報を提供するための無料のガイドブックとして作られた。2度の世界大戦中を除いて毎年更新しいる。現在でもヨーロッパを中心に多種の地図やガイドブックを出版している。その中で、装丁が赤色であることからレッドガイドとも呼ばれるホテル・レストランガイドが最も有名である。独自の調査によりレストランの料理のおいしさや快適性などを評価し、優れたレストランには「星」を付与して紹介している。

 ミシュランガイドの星は、(1)素材の質、(2)調理技術の高さと味付けの完成度、(3)独創性、(4)コストパフォーマンス、(5)常に安定した料理全体の一貫性――という5つの観点から評価されているという。1つ星は「そのカテゴリーで特においしい料理」、2つ星は「極めて美味であり、遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理」、3つ星は「その料理を味わうために、旅行する価値がある卓越した料理」といった意味がある。

 このように、ミシュランの1つ星、2つ星、3つ星には、移動して食べにいく価値があるかどうかという視点が盛り込まれている。こうした情報を提供することで、自動車文化を活発化し、タイヤの売れ行きを上げようという目論みだったと言われる。実際、ガイドブックは同社のタイヤビジネスの拡大やブランド力の向上に寄与し、現在でも引き継がれている。今では、クルマに乗っておいしいものを食べにいくのは当たり前になったが、自動車がまだ普及していない時代にさまざまなおいしい料理店を紹介するガイドブックは自動車産業の育成に大いに貢献した。

 現在は、ミシュランガイドが誕生した時代と比べて、大幅に自動車文化が浸透した時代だ。人が移動してレストランを訪れるだけではなく、レストラン(料理店)と料理が移動して人々の元に届く。自動車文化の浸透がそれを可能にした。