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 筆者は来日以来、中華料理についてたくさん不思議に思うことがあった。例えば、「なぜ『中国料理』と『中華料理』という2種類の看板があるのか」「なぜ餃子をおかずにしてご飯を食べるのか」「なぜ中国ではごく普通の麻婆(マーボー)豆腐が日本でこんなに人気があるのか」──である。そこで今年(2018年)、「中華料理進化論」という本を執筆するに当たって、今まで持っている不思議を整理・分析してみた。そして再認識したのが、なじみの麻婆豆腐のおいしさであり、そこには味以外の「味」の発見もあった。今回は、麻婆豆腐のテクノロジーの「味」とデザインの「味」について紹介する。

麻婆豆腐とは

 麻婆豆腐は日本では絶大な人気を博している。高級中国料理店にとっても街角の中華料理店にとっても重要なメニューの一つだ。スーパーマーケットでは麻婆豆腐の合わせ調味料も売れている。

 麻婆豆腐の「麻婆」とは、麻婆豆腐を最初に作り出したおばあさんの顏にあばた(麻点)があったことから名付けられたものだ。中国でも人気がある四川料理の一品だが、中華料理の代表格とされる日本ほどではない。

 一皿の麻婆豆腐には、味・食感・香りといったおいしさの要素が凝縮されている。その要素は、次の7つの文字によって表すことができる。

麻(マー):花椒(中国語読み「ホアジャオ」、日本語読み「かしょう」)のしびれる感覚。四川料理の魂は花椒だと言われる
辣(ラー):唐辛子の辛さ
鮮(シェン):うま味。肉、豆腐のうま味。炒めた時のうま味
香(シャン):香り。豆瓣醤(トウバンジャン)、豆豉(トウチ)、肉を炒めた香り
酥(スー):もろい歯ざわりで、中はやわらかい
嫩(ノン):豆腐の口当たりのやわらかさ
燙(タン):やけどしそうなほどの熱さ

 こうしたおいしさの要素に、多くの人々が魅力された。日本では、「全日本麻婆豆腐愛好連盟(全マ連)」といったグループが作られているようだ。

 日本での麻婆豆腐の始まりは、1960年代である。1961年に日本放送協会(NHK)の料理番組「きょうの料理」に出演し始めた四川料理の料理人・陳建民氏が、同番組の中で麻婆豆腐のレシピを紹介した。1952年に来日した同氏は、日本で四川料理の普及に尽力し、経営する四川料理店の看板メニューとなる同店ならではの麻婆豆腐や担々麺を作り上げた人物である。

 その後、日本では麻婆豆腐が驚くほど普及し、中華料理を代表する一品となった。日本に紹介された当初の麻婆豆腐は「麻味」と「辣味」を抑えたものだったが、近年は本格的な辛さを売りにする店も増えてきている。日本の人々が麻婆豆腐の辛さに慣れ、もっと刺激な味を求める傾向が見て取れる。麻婆春雨、麻婆ラーメンなど「麻婆○○」も増えている。

辛さが増す麻婆豆腐
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麻婆豆腐つけ刀削麺
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辛さが増す麻婆豆腐(左)と麻婆豆腐つけ刀削麺(右)

 もっとも、麻婆豆腐の普及に貢献したのは、料理人だけではない。そこには、テクノロジーからの後押しもあった。