Amazon Echo(米アマゾン・ドット・コム、Amazon.com)やGoogle Home(米グーグル、Google)といったAIスピーカーの登場がきっかけで、日本でも一気に熱が高まったIoT(モノのインターネット)住宅。新たな市場に期待で胸を膨らませ、さまざまな企業が実証実験などに名乗りを上げている〔図1〕。

だが、IT業界と住宅業界の両方を長年取材をしてきた筆者にとっては、正直「今度の“賢い家”は本物か」という疑問が頭から離れない。先進技術を住宅に導入してその付加価値を高めようとする動きは、これまでに何度もあった。だが、その成果はまだ十分に得られていないからだ。
振り返れば1980年代に、東京大学の坂村健教授(現・東洋大学教授)が開発したTRON(トロン)電脳住宅を起点として、ホームオートメーション(HA)がブームになった。例えば、ミサワホームのシンクタンクであるミサワホーム総合研究所は、HAをベースに住宅内ロボットを開発した〔写真1〕。
その後、インターネットが爆発的に普及し、IT化が加速。スマートハウスがブームになるなど、次々と波が押し寄せた。大和ハウス工業建築系技術研究室建築ソリューショングループの吉田博之主任研究員は「およそ10年周期でブームが訪れている」と指摘する。同社もその波に乗り、住宅のIT化に取り組んできた〔図2〕。
前出の例以外にも、数々の企業が取り組んできた。とはいうものの、IT化を十分に生かした住宅モデルや新しい市場が大きく育った形跡はない。これまでに描かれてきた“未来住宅”は、コンセプトの域を脱することができずに終わってしまったものが多いのだ。