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 家庭科調理室から漂う甘いクッキーの香りに生徒たちのにぎやかな声――とくれば懐かしい“調理実習”の一コマだが、なにやら様子が違う。各調理台にトースターと一緒に置かれているのは、教育用プログラミング言語「Scratch」の画面を表示したノートパソコン。「この焼き方ではサクサク感が足りない」「じゃあ、温度はそのままで焼き時間を長くしてみよう」「今度はサクサクにはなったけど甘みがなくなった」……。生徒たちはクッキーの焼き具合を味見しては議論し、パソコンに表示されるトースターの焼成プログラムを修正していく。

ノートパソコンでプログラムを修正しつつ、トースターでクッキーを焼く生徒たち
ノートパソコンでプログラムを修正しつつ、トースターでクッキーを焼く生徒たち
(写真:日経クロステック)
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 従来“名人の勘”や“秘伝”として扱われてきたレシピを定量的に検証して多くの人が再現できるようにする「科学的調理法」やそれを実践するための「スマート調理器具」は、食とITが融合する「フードテック」の一分野だ。そのフードテックを授業とする取り組みが、2020年10〜11月にかけて新潟市立光晴中学校で行われた。

 仕掛け人となったのは、パナソニック イノベーション推進部門 テクノロジー本部 デジタル・AI技術センター 主幹研究員の高田和豊氏だ。同社では高田氏が中心となり、Scratchを使って家中の家電類を制御する「Scratch HOME」プロジェクトを進めてきた。同プロジェクトについては、2018年3月に米国テキサス州オースティンで開催されたデジタルインタラクティブや映画・音楽・コメディー・ゲームなど多分野にまたがるイベント「South by Southwest 2018(SXSW 2018)」などで発表している。

授業で話すパナソニック イノベーション推進部門 テクノロジー本部 デジタル・AI技術センター 主幹研究員の高田和豊氏
授業で話すパナソニック イノベーション推進部門 テクノロジー本部 デジタル・AI技術センター 主幹研究員の高田和豊氏
(写真:日経クロステック)
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 Scratch HOMEによる教育効果の検証として行われたのが、今回の光晴中学校でクッキーを焼く授業だ。使われていたトースターは、同プロジェクトの一環として試作した「Scratchトースター」。焼き上がり時の通知音がScratchの猫のキャラクターにちなんだ「ニャー」であるという以外、基本的な機能は一般的なトースターと変わらない。加えてWi-Fi通信機能を備えており、無線接続したノートパソコンで作成したScratchのプログラムによって、トースターの余熱温度や加熱温度、時間を制御できる。2種類(近赤外線/遠赤外線)のヒーターの使い分けも可能で、本格派のスマートトースターと言える。

授業で使われた「Scratchトースター」(右上)とプログラム用のノートパソコン(左)、タブレット端末(右下)
授業で使われた「Scratchトースター」(右上)とプログラム用のノートパソコン(左)、タブレット端末(右下)
(写真:日経クロステック)
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 授業で扱うクッキーの材料の配合や形状は皆同じ。その生のクッキーに対し、まず「模範プログラム」として米国ボストン在住の少女が考案したプログラムでクッキーを焼く。グループに分かれた生徒たちはクッキーの観察と試食を行い、焼き方の条件について仮説を立てて検証する。そして他班の状況と比較しつつさらに仮説、検証を繰り返しながら、自分たちの“理想のクッキー”を求めて思い思いに「クッキー焼成プログラム」を作り上げていく。授業の最後にはグループごとに成果を発表し、情報を共有した。

クッキーの材料や形状は統一されており、プログラムにより焼き具合が変わることが分かる
クッキーの材料や形状は統一されており、プログラムにより焼き具合が変わることが分かる
(写真:日経クロステック)
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