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 ベテラン社員は新入社員に「会社の過去の活動や社員の行動慣習に囚われずに、第3者の視点で職場の課題を解決するアイデアを出してほしい」と期待しています。一方で、その期待に真摯に取り組む新入社員はベテラン社員に対して、「どうやってアイデアを出すのかを教えてほしい」と求めるのです。今回は、脳科学の知識を活用してアイデアをひらめく方法を解説します。

アイデアが生まれやすい条件とは

 優れたアイデアが生まれやすい場所を表す言葉として、「三上(さんじょう)」 や「3B」があります。「三上」は、11世紀の中国の学者で政治家、詩人でもあった欧陽脩(おうようしゅう)が指摘したもので、人間は何かの上にいるとき、中でも「馬上」「枕上(ちんじょう)」「厠上(しじょう)」の三上でアイデアが浮かびやすい、という内容です。一方の3Bは、ゲシュタルト心理学の創始者のWolfgang Kohler氏(1887〜1967年)が、「偉大な発見が生まれやすい場所は『Bus』『Bed』『Bath』の3Bである」と指摘したものです。

 これらを現在の環境で言い換えると、「電車やクルマなどの乗り物で移動しているとき」「布団やベッド、ソファなどで横になっているとき」「トイレに入っているとき」となります。「三上」と「3B」に共通するのは、1人でぼんやりできる時空でアイデアが生まれやすいという主張です。しかし、こうした主張に科学的な根拠はありませんでした。今回、これを脳科学の面から解き明かしていきたいと思います。

 アイデアの創出では「がんばり」と「ぼんやり」が鍵になります。ここでは、「がんばり」を意識的な脳の活動、「ぼんやり」を無意識的な脳の活動と定義します。今回紹介するアイデアの創出法は、進化の成果として我々の脳に備わっている無意識下の働きを活用した「ぼんやり」効果の活用が主題となります。

 脳の重さは、体重の約2%にしか過ぎませんが、人体の全消費エネルギーの20%を消費しています1)。そのうち意識的な「がんばり」の活動で消費するエネルギーは脳全体の消費エネルギーのわずか5%です。一方、無意識的な「ぼんやり」の活動は脳全体の消費エネルギーの75%を使っています(図1)。

図1 脳のエネルギー消費
図1 脳のエネルギー消費
人体の全消費エネルギーは、1日当たり約2000kcalである。そのうち20%程度の約400kcalを脳が消費する。
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