PR

アール・デコかモダニズムか

A:玄関。アール・デコとモダニズムが拮抗している B:中庭側にはホールやカフェが増築されている。右側の平屋部は家政婦が働くスペースだった C:1階、ホールの窓を外から見る。フェンスのデザインにはアール・デコが匂う D:1階から2階へと上がる階段。白の空間の中に置かれた黒大理石 E:2階から塔屋へ上がる階段。壁のガラスブロックを通して光が入る F:1階、テラゾーでつくられた朝食堂の窓台 G:1階展示室の床には間仕切り壁の名残が残る H:増築されたカフェの内部(写真:磯 達雄)
A:玄関。アール・デコとモダニズムが拮抗している B:中庭側にはホールやカフェが増築されている。右側の平屋部は家政婦が働くスペースだった C:1階、ホールの窓を外から見る。フェンスのデザインにはアール・デコが匂う D:1階から2階へと上がる階段。白の空間の中に置かれた黒大理石 E:2階から塔屋へ上がる階段。壁のガラスブロックを通して光が入る F:1階、テラゾーでつくられた朝食堂の窓台 G:1階展示室の床には間仕切り壁の名残が残る H:増築されたカフェの内部(写真:磯 達雄)
[画像のクリックで拡大表示]

 さてこの建物について取り上げるとき、ひとつの悩みは、この建物の様式がモダニズムか、アール・デコかという問題だ。

 窓のフェンスや玄関まわりのきっちりとした幾何学的デザインはアール・デコ的といえる。しかし全体を見ると、やはりこれはモダニズムだろう。平面ははっきりと左右非対称で、曲がっていく廊下のような、歩きながら体験する空間のつくり方もモダニズムの特徴だ。中心からずれたところに見える広がった円筒形のボリュームも、外観を整えるためというより、内部のらせん階段の形状がそのまま外に現れたとみなせる。機能から形を導くモダニズムの手法が、この建物にはうかがえる。

 しかし、アール・デコかモダニズムかという区別は、設計者の渡辺仁にとって意識されていなかったかもしれない。今ではアール・デコの華麗な装飾性に対して、モダニズムの徹底的な装飾否定といった、対立する立場として両者を捉えるが、この建物が建てられた1930年代は、ヨーロッパでサヴォア邸のようなモダニズムが台頭すると同時に、米国ではクライスラービルが建てられアール・デコの大ブームが起こっていた。建築界の最新ファッションとして、2つは同時に起こっていたのである。