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 今まで自分は「上司ファースト」で仕事をしていた――。パナソニックが米シリコンバレーに開設した新拠点「Panasonic β(パナソニックベータ)」で働くある社員は、「ユーザーファースト」で発想するデザイン思考(デザインシンキング)を実践することで得た気づきをそう表現する。シリコンバレーの地で、パナソニックの風土改革が始まっている。

 Panasonic βは、パナソニックが2017年にシリコンバレーに置いた新製品開発の「スタジオ」だ。パナソニックの社内カンパニーからエンジニアやソフトウエア開発者、デザイナーなどを選抜。デザイン思考などに基づく、シリコンバレー流の製品開発の方法論を実践している。

 米アップル(Apple)本社の目の前で始める、パナソニックの世界一奪還――。シリコンバレーに駐在するビジネスイノベーション本部長の馬場渉氏はPanasonic βの野望をそう語る。Panasonic βを設けた米クパチーノにあるパナソニックのオフィスビルは、アップル新本社の向かいに建つ。パナソニックのオフィスの方が先にあって、後からアップルの新本社がやって来た。

アップル本社(右)の向かいに建つ、パナソニックのシリコンバレー拠点(左)
アップル本社(右)の向かいに建つ、パナソニックのシリコンバレー拠点(左)
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 Panasonic βは同社にとって、イノベーション量産の方法論や仕組みを生み出す「マザー工場」と位置付けられている。まずは限られた人数の社員を選んで新しい方法論を実践し、新製品を生み出す。方法論の有効性を実証できれば、パナソニック全社に広げていく。

 有効性を実証するために開発している新規プロジェクトが「HomeX(ホームX)」。IoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用した住空間に関する新しい製品やサービスを、2018年秋には出荷する計画。また日本にもPanasonic βの拠点を設ける予定だ。

上司ではなく、顧客を向いた発想に転換

 Panasonic βでの製品開発体験は、パナソニックの社員の意識を変え始めている。冒頭で発言を紹介した社員によれば、これまでパナソニックでは新製品のアイデアを作り出そうとするとき、ユーザーではなく上司のことをまず考えざるを得ない状態だったという。アイデアを上司に認めさせる社内プロセスがあまりに煩雑で、上司を説得させやすいアイデアの創出や、上司に突っ込まれやすいポイントを回避することばかりに意識が向いていた。

 それに対してPanasonic βではアイデアを思いついたら、すぐにプロトタイプ(試作品)を作り、顧客を巻き込んでテストをする。顧客によるテストと顧客からのフィードバックに基づくプロトタイプの改善を何度も繰り返すことで、より良い製品を実現する。

 従来のパナソニックではプロトタイプとはハードウエアを指し、完成品に近いハードウエアを顧客に試してもらっていた。Panasonic βでは紙などを使った簡易なプロトタイプや、ユーザーインタフェース(UI)だけが実装されたデモアプリケーションなどを顧客に試してもらう。品質よりもスピードを重視し、まず顧客の声を聴くことを優先している。