インフラ向けの非破壊技術の研究開発が加速している。にもかかわらず、実用化されて現場に浸透した技術はごく一部に限られる。普及の鍵を握るのは発注者だ。消極的な姿勢を改め、華麗な“変身”を遂げるために押さえるべきポイントとは?
ポイント 1
ニーズを発信する
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)などが追い風となり、インフラ向けの非破壊技術の研究開発が加速している。だが、現場に浸透している技術は少ない。その要因について、大阪大学の鎌田敏郎教授は、「ニーズとシーズのマッチングがうまくいっていないからだ」と指摘する。
鎌田教授は、発注者側が提示するニーズが漠然としており、要求性能が具体性に欠ける点を問題視する。例えば、「長さ4cm以上の亀裂を80%以上の精度で抽出したい」といった要望があれば、研究開発はそれを基準に試行錯誤を繰り返す。ところが実際は、「目標設定がぼんやりしたまま研究開発がスタートするケースが多い」(鎌田教授)。
同様に、出来上がった技術の導入を判断する段階になっても、発注者側はその性能を評価する基準を持ち合わせていない。結果として、試験採用といった形で実用性を確かめる期間が必要になり、本格的な導入までには時間がかかる。普及のスピードを上げるには、発注者側からの積極的なニーズの発信が欠かせない。
発注者のニーズの洗い出しを支援する取り組みもある。例えば、国土交通省の国土技術政策総合研究所は、コンクリート構造物の内部損傷やあと施工アンカーを対象とした非破壊技術について、横並びで性能を評価するための指標や試験方法の整理を進めている。
さらに、国交省はSIPと連携し、発注者が現場のニーズに合った技術を選びやすくするため、新たな技術認証制度を立ち上げた。非破壊を含むインフラ点検技術を公募し、実地審査などを通じて要求性能を満たしていると判断したものを国が認証。発注者が認証技術のリストから点検業務で使いたいものを選んで指定できるようにする。