「商用車が直面している課題は、トヨタグループ内だけでは解決が難しい」。日野自動車社長の下義生氏は新たな一歩を踏み出す覚悟を固めた。
自動車業界を驚かせたのは、パートナーとして手を組んだのがドイツ・フォルクスワーゲン(VW)だったこと。日野とVWのトラック・バス部門は2018年4月、商用車分野における包括提携の合意書に調印した(図1)。
トヨタとVW――。乗用車市場では最大のライバルである両社を提携に突き動かしたのは「強い危機感」(日野の下氏)である。「これまでと同じ価値の提供では、これからのお客様のニーズには応えられない」(同氏)と訴えた。下氏は2017年6月に社長に就任し、その直後からトヨタグループ外の企業との連携を模索し始めた。
調印後に下氏と並んで会見したVWトラック・バス部門CEO(最高経営責任者)のAndreas Renschler氏は、「輸送における様々な変化に対応するには、投資と技術が必要だ」と強調。車両の全面改良に15~20年をかけてきたこれまでとは、スピード感が大きく変わると読む。
日野とVWの協業範囲は多岐にわたる。電動化や自動運転などの新技術を早期に実現する他、既存のディーゼルエンジン技術などで競争力を高める。現在、専門の委員会を立ち上げて議論を進めている。技術開発だけでなく、部品調達や「物流・輸送ソリューションの研究」(Renschler氏)も含めて歩調を合わせる見込みである。
宅配便は日本だけで40億個に
技術開発を加速させ、日野やVWにグループの枠を超えさせたのは、輸送業界から上がる“悲鳴”だ。電動化や自動運転といったテーマは乗用車にも共通するが、商用車の方が切実なニーズがある。
「Eコマース(電子商取引)の普及で宅配便の量が急増する中で、トラック運転者の不足が深刻な問題になってきた。再配達のコストもかさみ、非常に厳しい環境に置かれている」。日本郵便社社長の横山邦男氏は輸送現場の窮状を訴える(図2)。
国土交通省によると、日本における宅配便の取り扱い個数は2016年度に約40億個に達した。2000年に約25億個、2010年に約31億個と、増加率は加速傾向にある。当然、この傾向は日本だけのものではない。中国や米国では、日本をはるかに超える数の宅配便が配達されている。