「うちの会社は安定志向の社員ばかりで危機感がない」。企業の人事・採用担当者と話していると、しばしばこんな発言を耳にします。
日々の実務で忙しい社員たちに「危機感を持て」と言っても、なかなかそうはいきません。特に「世界市場でシェア50%、原料の鉱山を掘り尽くすのに何百年もかかる」というような企業の場合、危機感を持つこと自体困難でしょう。
しかし採用担当者には、危機感を持って型破りな動きができる“異能人材”を獲得したいという思いが強いようです。筆者もクライアント企業から、「安定志向が見え隠れする応募者ばかりが面接に来る、どうしたら異能人材を集められるのか」といった相談をよく受けます。
「安定のために何ができるか」を問う
このように、採用の可否を決める上で、「安定志向」は否定的な評価をされることが多いのです。安定志向だから成長がない、と思われているからでしょう。しかし本当にそうなのでしょうか。安定志向であることは転職に不利なのでしょうか。
例えば社会インフラや鉄道、公的機関などの場合。「安定している」ことが組織の大きな魅力の1つであることは間違いありません。そうした企業や組織の採用面接で、応募者に安定志向が垣間見えるのはある意味当然でしょう。
こうした企業には、筆者は「御社はインフラを安定的に運用することが第一。安定志向を持っている方でよいのではないか」と伝えます。その上で、「安定させるためにどう努力するのか、安定を確保するためにどんな取り組みができるか。それを面接で確認しましょう」とアドバイスするようにしています。
この会社に入りさえすれば、与えられた業務をこなすだけで生きていけるだろう――。そんな考えの人は、この質問にはうまく答えられないでしょう。逆にこの質問に説得力のある答えを返せる人は、安定を保つことの難しさを理解し、そのために自分は何ができるかをきちんと考えていると言えます。こうした人は、事業の安定のために自分のスキルや経験を生かして新たな取り組みをしてくれることが期待できます。
これはそのまま、応募者へのアドバイスにもなります。転職は、自分や家族の生活がかかった挑戦です。応募先の企業を選ぶ際に、安定性を重視するのは当たり前のことです。
それを面接のときに隠す必要もないでしょう。ただし、「安定を保つために何をすべきか、自分はどんな貢献ができるか」を考えて準備をすることをお勧めします。それをきちんとアピールできれば、面接で「安定志向だから駄目」とは判断されないのではないでしょうか。
何よりそのほうが、業界研究や企業研究が楽しくなるはずです。
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
