全2067文字

 年末年始、早期退職制度に関するニュースを幾つも目にしました。自社で早期退職希望者の募集が始まる、所属部門ごと他社に事業譲渡されるなど、今年はさまざまな変化に直面する人も多いかもしれません。

 今回は、たまたま新卒でIT部門に配属されたあと、所属部署を15年間で3度も事業譲渡されるという目に遭ったタキさん(仮名・50代)の事例を紹介します。タキさんは最終的に起業し、現在はシステム会社を経営しています。

 自分の所属会社が3回も変わった際に彼は何を考えていたのか、起業後に安定して会社経営を続けられる秘訣(ひけつ)は何か。先日、タキさんに会って直接話を聞いてきました。

会社が変わっても、自分の仕事は変わらない

 タキさんは小学校から大学まで一貫校、受験地獄とは無縁のまま大学卒業を迎えました。ちょうどバブル期で、金融系をはじめ就職先は引く手あまたの時代。しかしタキさんには欲がなく、たまたま先輩がいた会社に入社を決めました。

 配属されたのはIT部門。そこで、システムの外販を担当することになりました。入社時こそ景気が良かったものの、しばらくしてバブルが崩壊しました。金融に就職した友人には会社がなくなったり、吸収・合併の渦中に巻き込まれたりして、プライドがずたずたになってしまった人もいました。タキさん自身も、所属部署が他社に譲渡されることになりました。

 しかしタキさんは動じませんでした。かっぷくが良く学生時代から「部長」というあだ名が付いていたのですが、そのあだ名の通りどっしりと構えていたのです。ひたすら顧客の要望を聞いてやるべきことをし、滞りなく納品することに取り組んでいました。

 この頃も彼とは1年に1度は会っていましたが、「お客さまの期待に120%応える」など威勢の良い言葉は聞いたことがありません。タキさんに言わせれば、「とにかくきちんと納品することが仕事」。自然体で淡々と業務に向き合っていて、仕事については正直言って面白い話は聞けませんでした。代わりにタキさんが楽しげに話すのは、顧客と飲みに行った、ゴルフに行ったなどの話。顧客から信頼され、良い関係を築いている様子はうかがえました。

 実はこれが、彼の落ち着きの理由の1つだったようです。先日タキさんに会って当時の心境を尋ねたら、「在職時に、顧客との関係だけはしっかりつくっていた。事業譲渡されて会社が変わっても、自分の仕事は変わらない。顧客さえ見ていれば不安になることはなかった」と話してくれました。さらに「一生懸命やっていれば、最悪でも顧客に雇ってもらえると考えていた。事業譲渡の話が出ても不安になったことはないし、転職を考えたこともない」というのです。