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 業績悪化による人員削減が始まると、耳にするようになるのが「転身」という言葉です。リストラや解雇などのキーワードに比べて、なじみが薄いかもしれません。

 ここで言う転身とは、転職や起業のことです。筆者が会社員を辞めて独立し、最初に手掛けたのは、企業の「転身支援」の仕事でした。企業が従業員に対して、転職や企業の支援をすることです。早期退職制度を運用する際に、対象者は早期退職の準備として転身プログラムを受けたり、“転身部屋”に通ったりします。

 転身部屋とは、転職支援を受ける社員のための部屋です。多くの場合、通常の職場とは別の場所に設定されます。転職支援は人材紹介会社などに委託するケースも多いのですが、人材紹介会社のオフィス内に転身部屋があることもあります。

 筆者が支援した企業の場合は、30人くらい入る塾のような間取りの場所が転身部屋でした。そこで対象の社員が自分のキャリアを整理したり、転職活動を始めたりします。早期退職制度の運用時だけでなく、業績不振で従業員を解雇せざるを得ないようなケースでも、退職者向けの選択肢として転身部屋が用意されることがあります。

 外資系企業の場合は「あなたは社外にもっと良いチャンスがある」と言い、会社都合で解雇にするものですが、日本企業は転身プログラムを用意します。優しいようでいて、厳しいプログラムと言えます。

「出向先の新規開拓」がミッション

 転身プログラムは、早期退職者募集の際に希望者に提供する場合もあれば、会社からいきなり人事異動の形で伝えられることもあります。後者の場合は、遠回しの退職勧奨と考えられます。上司に呼び出され、「来月から新規事業部に異動です」「勤務地は役所前のきれいなオフィスです」などと告げられます。突然のことですから、本人はものすごく驚きます。

 新規事業部のミッションとしてよくある説明の1つが、「出向先の新規開拓」。この時点では、解雇や早期退職といった言葉は一切出ません。伝えられた当人としては何が何だか分からず、上司に質問します。

社員:その部署で私は何をするんですか?

上司:出向先の新規開拓です。

社員:開拓したとして、その出向先に行くのは私ですか?

上司:あなたかもしれない、他の誰かかもしれない、ひょっとしたら私かもしれない……。

 こんな都市伝説のような対応をする上司も本当にいるので、いよいよ不安になります。「出向先の新規開拓」という会社員生活で聞いたことのないミッション、よく分からない人事発令。本人が困惑するのも当然です。人員整理はどの会社にもつきものなのに、このように対象者にはっきり言わないケースは意外なほど多いのです。