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 一から頑張ろうと決意も新たに転職先に入社。しかし短期間のうちに「この転職は失敗だった」と思い知る――。実はそれほど珍しいことではありません。

 与信管理サービスなどを手掛けるリスクモンスターが2021年2月17日に公開した、「社会人の転職事情アンケート」の結果からもそれがうかがえます。過去の勤務先における最短の在籍期間を尋ねた設問で、1年未満と答えた転職経験者が全体の41.8%に達しました。

 興味深いのが、20代の22.7%が、1カ月未満での離職経験があると回答していることです。筆者から見ると、これは驚くべき数値とはいえません。

 将来の成長性を期待して若手人材を採用する、いわゆる「ポテンシャル採用」を実施している企業も多いのですが、採用基準が不明確だと入社後にミスマッチが起こりがちです。とにかく人数を集めるべく、採用選考や入社後研修などが不十分な状態で採用してしまうケースもあります。こうしたことから、入社後すぐに辞めてしまう若手が出ると考えられます。

 同調査によれば、1カ月未満での離職経験がある人は30代で16.7%、40代で15.5%、50代で16.1%と若手以外でも一定の割合を占めます。若手以外でも、短期離職は決して珍しいことではありません。

大手ITベンダー子会社からスタートアップへ

 具体的な事例を見てみましょう。新卒3年目で転職に失敗した熊沢君(仮名・20代)のケースです。

 「世界に有名なエンジニアになりたい」との目標を持っていた熊沢君。IT業界をターゲットに就職活動をしました。大手ITベンダーに応募しましたが、残念なことに不採用。しかしその子会社から内定を得て入社しました。

 グループ会社だから処遇も似たようなものだろうと思っていましたが、親会社の同期入社組の社員とは想像以上に差がありました。親会社に常駐で働いている熊沢君は、その差を目の当たりにする日々。「同じ仕事をしているのにどうして」と疑問を感じていました。さらに社内の先輩の様子を見ていると、就職時に思い描いていたキャリアの達成も難しそうです。

 そこで入社3年目に、スタートアップをターゲットに転職活動を始めました。「大手で基礎力をつけたので、今後はスタートアップで挑戦してみよう」と考えたのです。

 周囲は大手ITベンダーやその子会社の社員ばかりでスタートアップの評判など集めることができません。相談する仲間もおらず、転職サイトなどを頼りに情報収集しながら活動を進めました。

 こうした場合にありがちなのが、自分の憧れや自分が欲しがっている情報ばかりを集めてしまうことです。熊沢君は転職サイトに掲載された魅力的な文言に引かれ、あるスタートアップにコンタクトを取りました。社長に会ったその場で口説かれて、意気揚々と転職しました。

 しかし入社してみたら、大手の環境に慣れた熊沢君にとってスタートアップの企業風土はなじみがたいものでした。採用条件や残業に対する考え方も大きく異なりますし、担当業務の範囲も前職とは比べものにならないほど広がりました。オフィスの掃除や郵便物の発送なども当番制でこなさなくてはならなかったのです。熊沢君は、エンジニアとして腕を磨く時間を十分につくれませんでした。

 これは大手とスタートアップのどちらが良いかという話ではなく、「どちらが合うか」という問題です。スタートアップで多様な業務を楽しめる人もいれば、熊沢君のように水が合わない人もいます。今熊沢君は、前職のようなITベンダーへの再転職に向けて活動しています。