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 「独立・開業を考えたきっかけ」で3位になった「自分の能力を試したい」(14.3%)も注意したいところです。多くの方にとって自分の能力といえば、技術力やマーケティング力などの専門能力のことでしょう。しかし開業後、自分の専門性を発揮するまでにはそのほかのさまざまな能力が求められます。

 会社経営の基本的な知識や、経営者としての自己管理能力、モチベーションを維持する力といったものです。開業後はこれらのスキルを高めることに振り回されて、自分の専門性は後回しになることがあります。気づいたときには専門スキルが陳腐化してしまっていた、といったケースも耳にします。

 4位の「プライベートの時間を作りたい」についてはどうでしょう。1人で開業した場合は、会社員時代に比べて自分でコントロールできる時間は確かに増えます。

 ただ、これも売り上げ次第で変わります。独立したら、土日も休まず資料作りに追われることはよくあります。プライベートの時間はつくれるかもしれませんが、「その時間があれば1件でも営業して売り上げをつくりたい」という気持ちから逃れられない人もいるでしょう。

転職でも「年収1000万」は1つの目安

 この調査では、独立・開業による目標年収も尋ねています。男性は1000万円前後、女性は300万~500万円前後と答えた人が多いようです。「意外と低いな」というのが筆者の正直な感想です。あくまで目標ですから、もっと高い金額でもよいように思います。

 1000万円というのは、転職の際の目標年収としても1つの目安になります。もちろん業種によって設定する年収には差があるでしょうが、独立・開業でも目標年収が1000万円というのは少しもったいないように感じます。この1000万円が、会社の経費を自分の裁量で使える分も含めた額というイメージであれば、会社員を続けたほうがよほど安定するのではという気がします。

 開業して年収1000万円を稼ぐのと、企業で働いて年収1000万円を得るのは大きく違います。現職で働き続ける、または好条件の会社に転職するといった方法のほうが、同じ年収を得るなら負担が少ないかもしれません。

 もちろん、苦労は承知の上で独立・開業したいという人もいるでしょう。そうした場合も、まずは会社員を続けながら独立後をイメージして試せることもあります。急いで会社を辞めるのではなく、納得の上で決断されることをお勧めします。

天笠 淳
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
天笠 淳 早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。著書に『転職エバンジェリストの技術系成功メソッド』『オンライン講座を頼まれた時に読む本』(いずれも日経BP発行)がある。アネックスのWebサイトはhttp://www.annexcorp.com/