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 筆者はこれまで数多くの転職相談を受けてきましたが、意外と多いのが「良い仕事があったが、家が遠くて転職を諦めた」という話です。早期退職などで退社した人の再就職支援の場では、家が遠いことが応募しない言い訳になることもあります。

 新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが広がったとはいえ、まだまだ出社が必要な職場は数多くあります。住居が固定されていることは、転職候補先の選択肢を狭めてしまっているのではと筆者は感じます。

 転職のためとはいえ、長距離通勤は強要できません。片道2時間かけて通勤するのは、それなりの体力や精神力が必要です。自動車通勤の場合は、片道1時間でもしんどいのではないでしょうか。筆者は以前、地方で片道40kmの道のりを1時間かけて自動車通勤していましたが、最初は音楽を聴くなどして楽しかったものの、慣れてきたら運転がただの作業に変わり、しかも帰りは暗い夜道を注意しながら走る必要があるなど、かなり大変な経験をしました。

 このように、通勤を考えると、住宅の所有が転職先の選択に大きな影響を与えるのは間違いありません。職場から近い場所に身軽に転居できるなら、それだけ選択肢は広がります。所有せず、その時々に応じて都合の良い場所に住むというのは、転職の自由度を高める上で有効です。

所有するなら売りやすい物件を購入する

 では筆者はどうかといえば、筆者も20代の頃は住宅を所有したいと思っていました。一方で、45歳までは転職を繰り返して会社員を続けると決めていました。失職のリスクは常にありますし、海外も含めていろいろなところで働きたいという思いを持っていました。このため、住宅の購入が足かせになる可能性は当時から頭にありました。

 そこで、マンションを購入する際に以下のような物件探しの軸を設けました。

  • ローンの支払額は家賃と同程度とする、無理に支払額を上げない
  • 広過ぎると賃貸に出したり売却したりしにくい。60m2前後にする
  • 交通の便の良いところにする。具体的には東京駅まで1時間以内、駅から徒歩15分以内。万が一終電を逃してもタクシーで5000円を超えない場所

 不動産会社の担当者には、当時かなり珍しがられました。資産運用目的ではなく転職しやすいという目的で、最初から手放しやすい物件を探す人はなかなかいないと言われました。

 結果として、頭金4万円でマンションを購入しました。購入額は、住宅金融公庫(現在は住宅金融支援機構)だけで借り入れできる程度の金額です。その際の経緯は、本連載でも紹介しました。

 しばらくしてからある事情で転居することになりましたが、その際はマンションを売却する決断も簡単にできました。買い手も早々に現れ、満足のいく金額で売れました。