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 しかし武本さんはそれに負けず、退社後に学校に通って授業を受けました。学校が終わるとファミリーレストランに駆け込み、分厚い本を広げて一心不乱に勉強を続けます。店員さんに退店を促されることもなく、あまりの熱心さにコーヒーをサービスしてくれるほどだったそうです。

 こうした姿は、武本さんの息子にも刺激を与えました。親が一生懸命に勉強する様子が良いプレッシャーになり、進んで机に向かったそうです。おかげで塾代は一切かからず、高校も大学もトップレベルの学校に進学したという親孝行な結果になりました。

強い目標意識が重要

 こうして努力を重ねた武本さんは、3年間の法科大学院を無事に卒業。司法試験に一発合格はできませんでしたが、働きながら浪人生活を続けて51歳で合格しました。合格後も会社員を続けるか、弁護士事務所に転職するかを働きながら考えた末、2年後に弁護士事務所に入所しました。

 現在は、弁護士事務所で最年長ながら、業界経験の浅さは新卒弁護士に次いで2番目という立場で働いています。社会人としては30年以上の経験があるものの、弁護士としては新人扱いです。これから弁護士として活躍するには、さらなる努力や工夫が必要になるはずです。

 しかし武本さんは気負わず、「75歳まで働くために、職場が最高のアンチエイジング」と言いながら前向きに取り組んでいます。持ち前のバイタリティーと30年以上の技術者経験を生かして、活躍の場を広げてくれるでしょう。

 こうして振り返ると簡単に見えるかもしれませんが、50歳前後で6年間、働きながら勉強を続けるのは並大抵のことではありません。武本さんがそれを続けられたのは、「強い目標意識があったから」こそだと筆者は考えています。

 転職に限らず言えることですが、粘り強く努力するために強い目標意識は不可欠です。「何のために、何を目指して努力するのか」をきちんと定めて見失わないことの大切さを、武本さんから学びました。

天笠 淳
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
天笠 淳 早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。