肩書にあぐらをかく

 日本企業の技術者を採用してノウハウだけ学び、不要になったら解雇。こんなことは許せないと感じる人は少なくないでしょう。しかし中途採用は、企業が求める知識や能力を持つプロフェッショナルを獲得する手段です。それがなくなったら、雇用は保証されません。

 Aさんは、なぜ解雇されたのでしょう。私は雇用主ではないので推測になりますが、Aさんとの会話から考えられる解雇理由を挙げてみます。

 まず、技術顧問という肩書にあぐらをかいていたこと。日本では、年齢や経験、学歴だけである程度の役職を用意する企業もまだあるでしょう。経営陣の言う通りに事業部の方針を立て、目の前の仕事に対して自分のノウハウを費やすだけでも許されます。しかし、海外メーカーではこれは通用しません。

 Aさんは、自分の保有スキルだけで部下の技術指導をしていました。最初こそ、部下から「先生」と呼ばれ、カリスマのような扱いを受けます。しかし一定のスキル移転を済ませ、部下が育ったら、価値が無くなってしまったのです。

 彼は先生扱いをされていることに満足感と優越感を感じ、慢心してしまったようです。日本に留まっていれば、社内での生き残りをかけて部下の指導や新しいプロジェクト作りにまい進していたことでしょう。それが海外で厚遇されるあまり、技術者として新技術に関心を持たず、新しい取り組みもせずにいたようです。

高額オファーにはマネジメント業務も含まれる

 またAさんは、マネジャーに求められる役割を果たせていませんでした。新事業に関する提案をするなど、企業をさらに伸ばすための活動をしていなかったのです。

 Aさんは転職を決めるに当たって、技術顧問やマネジャーという肩書だけで決断してしまっていました。10ページにわたる職務要件も日本企業感覚で読まず、自分がすべきことを理解せず転職しました。

 日本では課長という肩書があっても、技術職の場合は研究開発が忙しいという理由で、マネジメントをしなくても問題にならない企業があります。しかしAさんが転職した海外企業は、技術職であってもマネジメントをしっかりする必要がありました。当然ながら、高額のオファーには、マネジメント業務も含まれていたのです。Aさんは、それを認識できていませんでした。また入社後は、目標設定、人事評価も適当だったことから部下からの信用も得られなかったようです。

ものづくり大国ニッポンの勘違い

 最後に致命的なのは、いつまでも日本がものづくり大国、先進国であると勘違いして、自分の能力開発を一切せずにいた点です。

 ものづくりをグローバルで見たとき、過去の栄光にしがみついている暇はありません。海外の先進企業を見据え、社員も企業も常に進化していかなくては、取り残されてしまいます。

 自分のキャリアの市場価値は、国内でなく世界で見る必要があります。所属企業の世界的なステータスを冷静に確認してから、転職活動をするのがよいでしょう。

天笠淳
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
天笠淳 早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。