最近では、業績不振によるオフィス移転や縮小のため、1脚数十万円する高級オフィスチェアなどを「メルカリ」のようなフリマサービスで売却している企業もあるようです。自社のこうした動きを見ると不安になるかもしれませんが、無駄な出費を減らすという意味では「すべきことをしっかりやっている」といえます。
このように解雇回避努力というのは、背景を知らないとかなりネガティブな企業活動に見えることがありますが、意外にそれが雇用維持につながっていることも多くあると考えてください。逆にこれをきちんとしない企業は、優秀な人材の流出を招いても仕方ありません。
いざ人員整理に踏み切るときの3要件
それでもいよいよ難しいとなったら、人員整理に踏み切ることになります。このときには3つの要件があります。それぞれ要点を解説します。
人員整理の必要性
経営悪化によってどうしても人員が余り、削減しないと経営を維持できない正当性がある場合に実行するのが人員整理です。その必要性を判断するには、慎重な検討が必要とされています。
被解雇者選定の合理性
解雇する場合は人選をすることになります。その選定基準について、公正かつ合理的な理由がなければなりません。
通常は現場の部門長などに基本的な人選を依頼することになりますが、しばしば、公平性が保たれていないことがあります。筆者も解雇対象者の転進支援を企画、運営したことがありますが、全員が独身男性で、あまり文句を言ってこなそうな人でした。明らかに「性格的、状況的に解雇を伝えやすい人」が選ばれていると感じました。
手続きの妥当性
対象者には丁寧に説明し、すり合わせを行って納得してもらう手順を踏む必要があるということです。
実際には、対象者に文句を言われることを恐れてきちんと伝達しない管理職や人事担当の方も多くいます。確かに整理解雇は、管理職として部下に最も言いにくい言葉の1つでしょう。しかし対象者にとっても、そのときは怒り心頭だったとしても、しっかり伝えられたほうが自社への諦めもつきます。
以上、整理解雇の4要件について解説してきました。大手企業はこうした運用をきちんと実施し、退職後の転職支援まで手厚く支援できるかもしれませんが、中小企業ではなかなかそうはいかないケースが多いかもしれません。ただ、整理解雇に踏み切る企業がどんなステップを踏むのかは、働く側の人も押さえておくとよいでしょう。
整理解雇が始まったら自分も辞めるのか、会社にとどまるのかはその人次第です。以前も本コラムで書きましたが、「泥船」といわれた会社に残って再興させる人もいます。焦って行動を起こすことだけはしないほうがよいでしょう。
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
