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 筆者が受ける相談で最近多いのが、ハラスメントによる退職や転職です。「おまえの能力が不足している」などと上司に追い込まれ、仕事が手に付かなくなる。そのことについてさらに原因追究や叱責を受け、疲れ果ててしまう。「もう退職して、別の会社に転職したい」と筆者に相談に来るのです。

 その気持ちもよく理解できるのですが、筆者は必ず「その判断は本当に納得の上でのものか」を確認するようにしています。転職をするなら、できるだけ平常心でしっかり考えていただきたいと思うからです。

パワハラ上司というはずれくじ

 ハラスメントは、さまざまな職場で問題になっています。2020年8月には、全日本教職員組合が「青年教職員に対するハラスメント調査」の結果を発表しています。これによれば、20~30代を中心とした若手教員の約3割がパワーハラスメントを受けていました。「ハラスメントが原因で退職しようと思ったことがある」と回答した人は、全体の1割を超えました。

 教職員だけでなく、一般企業の社員でも同様の思いをしている人はいます。そうした人から相談を受けたとき、筆者が必ず投げかける質問があります。「会社風土としてパワハラがまん延しているのか、たまたまパワハラ上司というはずれくじを引いてしまったのか」を明らかにするための質問です。

 全社的にパワハラが横行しているような職場なら、基本的には退職を勧めます。こうした職場はコンプライアンス違反なども行われていることが多く、問題の解消が大変だからです。

 しかし、そうした例は少ないと筆者は感じています。自分は上司との巡り合わせや相性が悪くパワハラを受けているが、他の社員は平穏に働いているといったケースが多いのです。

 こうした人は、自分を責めてしまいがちです。他のメンバーには普通の指導をしているにもかかわらず、自分だけは強いプレッシャーをかけられたり激しく叱責されたりする。「自分だけ怒られるのは、自分に能力が不足しているからだ」と考えてしまうのです。

 これは無理もないことでしょう。経験豊富な上司や先輩から厳しい指導を受けることが続けば、自分の自信や誇りが崩れていきます。そのストレスでさらに仕事がうまくこなせなくなり、また叱責を受け……と悪循環に陥ります。

 しかし、厳しい指導はあなたの能力不足が原因とは限りません。価値観や人間性が合わないというだけで部下にきつく当たる上司は、残念ながら存在します。また仮にあなたの能力に不足があったとしても、むやみに声を荒らげるのは上司としてしてはならないことです。