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 コロナ禍によって、期せずして転職活動、いや求職活動をしなければならなくなった人がいます。事業縮小や早期退職者の募集に踏み切る企業が増えているからです。

 今回は、企業の雇用調整に遭って転職活動をせざるを得なくなった場面で何が起こりうるか、初日から描いてみたいと思います。架空のメーカーA社が舞台ですが、筆者がこれまでに見聞きしてきた話を基にしています。

 A社は、「転身部屋」の運用を始めたばかり。転身部屋とは、早期退職する人が次の職を探すための部屋です。「追い出し部屋」などと呼ばれることもありますが、筆者は転身部屋という表現が合うと考えています。

 現在の景況では転身部屋を用意するのも厳しい企業が少なくない気もしますが、転身部屋のイメージを持っておくことで、転職活動に当たって得られるものは多いでしょう。「仮に転身部屋に所属したら」という前提でお読みいただければと思います。

人事部に「新規事業部への異動」を命じられる

 新卒で入社して以来、30年ほどにわたってA社で働き続けてきた玉田さん。現在、会社とは別の場所に出社しています。そこは30人ほどが入れる学習塾のような部屋です。机と椅子が30人分置かれ、さらに共通PCが5台ほど用意されています。

 実はそこが転身部屋です。転身部屋には数カ月、長ければ1年ほど在籍します。会社の名刺を使って次の転職先を探すのが、転身部屋に送られた社員の仕事です。

 ほんの数週間前まで、転身部屋のことなど考えたこともなかった玉田さん。自社で早期退職制度の案内が始まったときも「自分は他社で通用する自信もないし、とりあえず今の職場にしがみつこう」と思っていました。タバコ部屋で会った所属部署の上司から、早期退職の応募の意志を軽く聞かれたときにも「そんなの無理ですよ、家族もいますし」と答えました。

 しかしまもなく、人事部からの呼び出しがありました。玉田さんは「いったい何だろう、人事異動だったら課長か部長からの呼び出しだろうし」と疑問を抱きながら人事部に出向きました。そこで伝えられたのが「新規事業部への異動」でした。

 新規事業部の役割は「出向先の新規開拓」。社内でも人が余っているので、出向先を開拓せよというものです。

 「ちょっとおかしな部署だな、上司も何も言わないし」とさらに疑念を持った玉田さん。人事部との面談の場で「出向先を開拓できたら私が行くのですか、それとも既に人選が終わっているのですか」という質問を投げかけてみました。

 人事部からの回答は「あなたかもしれないし、他の社員かもしれない」。明らかにはぐらかす回答です。

 そして渡されたのが、1枚の地図でした。12月20日以降は今のオフィスには出社不要、翌年の1月4日からは地図にある事業所に出社するようにと言われたのです。

 部署に戻った玉田さんは、早速上司に確認を求めました。上司からは「今は業績不振だし、そこに一時避難してはどうか。景気が良くなったら戻って来られるから」と言われました。

 上司にまでそう言われては、どうしようもありません。モヤモヤを抱えながら、いつもとは少し違う年末を過ごしました。そして年明け、地図を片手に「新規事業部」に出社します。