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転身部屋で待っていたものは

 そこには、玉田さんと同じように移動になった社員が30人ほどいました。話題になるのは、今回の人事異動が何を意味するのか。各人の捉え方はバラバラです。

 「会社は私たちを捨てた」と言う人もいれば、「半年もすれば戻れるんじゃないか」と言う人もいます。人によっては「うちの会社は不動産を持っているし、多少の不景気でも大丈夫。ここでしばらく気楽に過ごすか」とのんきに構えています。

 ほどなく、転身部屋の運営を委託された企業の担当者が部屋に入ってきました。人事部の代わりに、これからの活動を説明します。

 配られた資料に書かれているのは、新規事業とはほど遠いものでした。「キャリアとは何か」「履歴書、職務経歴書の書き方」「ライフプラン」など、転身部屋に勤務する社員の転職活動を促す内容がぎっしり書いてあります。

 これを読んだ社員からは「やはりはめられた」「いずれ来ることだから仕方ない」などさまざまな感想が漏れます。「アドバイスをもらえて転職活動できるなんてラッキー」と前向きな人もいます。

 そのうち、「人事部は来ないのか」「上司も様子を見に来ると言っていたが来ないぞ」といった声が上がり始めます。しかし、恐らく人事部は来ません。上司も来ないでしょう。経営判断で運用されている転身支援制度ですから、誰も来ないし誰も助けてくれません。

 自分の異動理由を聞こうとしても、話してもらえないでしょう。転身部屋を運営する企業の担当者に食ってかかる人もいますが、そうしたところでどうにもなりません。

 こんなときは冷静に状況を整理し、自分と向き合いましょう。せっかく転身支援のプログラムが用意されているのですから、利用しない手はありません。一日も早く気持ちを切り替えて前向きに転職活動を始めるほうがよいでしょう。

 これまでの会社員は、自分の今後を会社が決めてくれた面があるかもしれません。しかし時代は変わりました。これからは、自分で決めなくてはならないのです。

天笠 淳
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
天笠 淳 早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。著書に『転職エバンジェリストの技術系成功メソッド』『オンライン講座を頼まれた時に読む本』(いずれも日経BP発行)がある。アネックスのWebサイトはhttp://www.annexcorp.com/