個人によって異なる「暑さ感覚」

 一般に、暑熱環境下での温熱的な身体への負荷を示す指標としては「暑さ指数(WBGT値)」が広く用いられている。これは、熱中症のリスクを事前に判断するために米国で1954年に開発された。屋外の場合、暑さ指数は「0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度」という式で算出される。国内で840カ所の情報が提供されており、暑さ指数が28℃を超えると熱中症のリスクが高まるという。

一般に用いられている「暑さ指数(WBGT値)」(出典:環境省、作図:アシックス、NTT)
一般に用いられている「暑さ指数(WBGT値)」(出典:環境省、作図:アシックス、NTT)
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 しかし、この指標は必ずしも個々人の負荷を反映するものではない。例えば「同じ環境にいても、背が高い人、低い人などで個人差は大きい」(森内氏)。そこでアシックス、NTTの両社は「個人別の暑さ指数(WBGT値)」という指標の確立を目指す。算出式は「A1×衣服内温度+A2×衣服内湿度+A3×日射熱温度+A4×身体活動強度(A1~A4は重み付け係数。フィールドテストを通して決めていく)」だ。

 日射熱温度に加え、センサー付きウエアで取得可能な衣服内の温度・湿度、さらに個人の身体活動強度(心拍数など)の影響を考慮して求められた指標である。個人別の暑さ指数は、個人ごとに、また活動時間や置かれている環境などによってもしきい値が変化する。

 これまでに行われたテストでは、センサー付きウエアによって求められた個人別の暑さ指数とテスターに聞いた主観的な暑さ感覚が、概ね一致していることが示された。

 下のグラフは、青色の折れ線グラフが個人別の暑さ指数の推移、黒い四角が従来の暑さ指数、赤い丸が個人の主観的な暑さ感覚を「非常に涼しい~非常に暑い」まで7段階で数値化したものを表す。また、時間ごとに行ったアクティビティが下に示されている。

個人別の「暑さ指数(WBGT値)」と暑さ感覚の比較
個人別の「暑さ指数(WBGT値)」と暑さ感覚の比較
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 従来の暑さ指数はアクティビティの多寡によらずほとんど一定である一方、個人別の暑さ指数はアクティビティの激しさに応じて変化していることが分かる。例えば午前10時半頃に走った直後のデータを見てみると、個人別の暑さ指数は急激に上昇しており、その時にはテスターも「暑い」と感じていた。

 今後は、データの精度向上に向けたセンサーの改良、実験規模の拡大(1000人規模、年齢層の幅を広げるなど)による個人別の暑さ指数の確立に加え、客観的な暑さを示すデータ(深部体温など)との相関を見ることによって、体調管理に個人別の暑さ指数が有効であるエビデンスを積み上げていく。また、センサー付きウエアで計測されたデータを元に、アプリ上で水分補給や休憩を促すアラートを通知する、といった機能の実現を目指すという。