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認知症患者に向け“ゆったり”品を試作

 (2)のヘルスケア分野では、ユーザーとして認知症患者や職業ドライバーなどを想定する。現時点では一般に、疾患を持つ人や危険な作業に関わる人は、何か症状が現れてからバイタルデータを取得するのが普通だ。e-skinを使って日常的にデータを取得し、症状が現れる前に兆候を把握しておけば、対応できる可能性が高まる。生存に関わる利点が明確であれば、着用に対する障壁を乗り越え「着るのが当たり前」という状況を作り出せる。

認知症患者を想定したヘルスケア系のe-skin試作品。6軸センサーや心電計測のための電極、温度センサーを備える(写真:Xenoma)
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 こうした利用を想定し、既にドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州にあるエッセン大学病院や日本の運輸企業との間で開発が進んでいる。エッセン大学病院では、老年科(geriatrics)の患者140人を対象にした臨床実験について、現在、倫理審査委員会で審査中という。

 開発のきっかけは、「認知症患者はリストバンド型デバイスを外してしまう」(網盛氏)ことだったという。そこで衣服型センサーが求められたが、いわゆるコンプレッションウエアではなく普通の綿のTシャツであることが必要だった。また、運輸企業の職業ドライバーに向けたe-skinでも、着用がストレスにならないよう、綿の半袖Tシャツを予定しているという。

 胸部の変形度合から呼吸、皮膚表面温度から推測する体温などを検知でき、6軸センサーも搭載する。「心電計測のためのシャツはほかにもあるため、従来は手掛けなかったが、医療の現場では1着でできるだけ多くの生体情報を取りたいという要望がある」(網盛氏)として、簡易的に心電も計測できるようにした。

 医学的な「心電図」は12個の電極を使って計測する必要がある。一方、開発するシャツの電極は2個または3個のみのため、厳密には心電図のうちの「R波」成分だけで心拍を計測する。それでも、腕時計式の脈波計測では検知できない不整脈が分かるなど効果は大きい。データを組み合わせることで高齢者の見守りはもちろん、ドライバーの眠気や屋外作業者の熱中症対策などにも役立つとみる。

 特に土管内での作業といった場合は危険性が高く監視の重要度が高いものの、監視カメラなどの機器を設置する場所がない。こうした場合も衣服型ウエアラブル機器の力が発揮されると見る。

ヘルスケア向けe-skin試作品(左)は米国技術系メディア大手のEngadgetによる「Best of CES 2018」に選出され、Best Accessibility Tech部門で優勝した(写真:Xenoma)
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データ解析のネックも解消

 同社ではウエアの販売のほか、データ解析サービスを提供し、アプリやプラットフォーム事業の展開を予定する。プロスポーツチームであっても、現時点ではデータ解析を担当するアナリスト人材がいない場合もあるからだ。

 ゴルフについては、2019年にスマホアプリと組み合わせたコーチングデバイスとして発売する予定だ。サービスのコアの開発は自社で手掛けるが、販売はゴルフ用品メーカーなどとの連携を予定する。「データ解析ではビッグデータが話題になるが、スモールデータも役立つ。例えばコーチの指導により変化があった場合、後日習ったことができているかできていないか、できていない場合はどのように修正すべきかをアプリから伝えるといった使い方ができ、自分のデータだけでも役立てられる」(網盛氏)。ヘルスケア関連のプラットフォーム事業では、計測したデータを一般のウェブサービスのように広告に活用するのではなく、安心・安全に活用することを狙う。

 同社が強みの1つとするのは「日本におけるモノづくり力」だ。同社は大田区の“工場アパート”であるテクノFRONT森ケ崎に本社を構えており、“同じ屋根の下”の企業から協力を受けることも多々あると言う。「今後、量産に向けて課題は多いが、日本で開発することが優位性につながる。高機能材料について開発は欧州なども盛んだが、量産品が得意なのは日本。工業用ミシンなどの生産機械に加えて、化学品や生地も強い」(網盛氏)。