「HPC」と呼ぶ超薄肉コンクリート板が、沖縄県を中心に採用実績を増やしている。開発の中心となったのは、構造技術者だ。住宅規模でも使えるプレストレストコンクリートはできないか。こんな相談がきっかけとなり、これまで見たことのない素材が誕生した。
「HPC」でもう1つ注目したいのが開発体制だ。HPC沖縄の阿波根(あはごん)昌樹代表は、構造技術者で、西薗博美構造設計事務所(東京都世田谷区)の沖縄分室室長でもある。「住宅規模でも導入できるPC(プレストレストコンクリート)の仕事を考えられないか」。2013年にピーエス三菱九州支店PC建築部の池田龍基部長から持ち掛けられた相談が1つのきっかけになった。
沖縄のベランダではよく穴あきコンクリートブロックが使われるが、これを代替できる地震に強いブロックはできないか。そう考えていた阿波根代表は、この2つを重ね合わせてPCパネルを考案。池田部長の紹介で技建の大城米男社長と知り合い、2014年の試作にこぎ着けた。細矢仁建築設計事務所(東京都世田谷区)の細矢仁代表は試作を見て可能性を感じ、開発に参加。現在はアドバイザーとして主に意匠面から支援している〔写真1〕。
当初は、開発関係者が設計に絡むプロジェクトがHPC採用の中心だったが、最近は実例を見た無関係の設計者からの引き合いもある。「その際、設計用の諸元データを構造設計事務所に提供して、設計してもらう」と、HPC沖縄のアドバイザーを務める西薗博美氏。「新しいアイデアを実現したいという場合が多く、実験して検証しながら進めることを図面にうたってもらう」(阿波根代表)
構造事務所は、多くの設計事務所と付き合うので、様々な情報が寄せられる。「私が情報の中心にいることによって、人と人をマッチングしたり、問題解決のための組み合わせを考えたりできる」と、阿波根代表は言う。現在は、設計事務所が取り組む設計プロポーザルに協力し、HPCの採用につなげる場合が多い。