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 槇総合計画事務所の“端正さ”か、青木淳建築計画事務所・昭和設計JV(設計共同体)の“新しさ”か。あるいは環境デザイン研究所・林魏建築設計事務所・倉橋建築計画事務所JVの“にぎわい”か──。長野県は2020年7月24日午後1時から「松本平広域公園陸上競技場整備事業基本設計」の公募型プロポーザルの2次審査を一般公開で実施し、午後4時30分ごろ、最適候補者を青木淳建築計画事務所・昭和設計JVに特定した。

 2次審査に残っていたのは、仙田満氏を中心とする環境デザイン研究所・林魏建築設計事務所・倉橋建築計画事務所JV(以下、環境デザイン・林魏・倉橋建築JV)、槇総合計画事務所、青木淳建築計画事務所・昭和設計JV(以下、青木淳・昭和設計JV)の3者(受け付け順)。1次審査で選外となったSANAA、伊東豊雄建築設計事務所、隈研吾建築都市設計事務所などのプロポーザル案も含めて詳報する。

最適候補者に選ばれた青木淳・昭和設計JVによる案の模型(写真:宮沢 洋)
最適候補者に選ばれた青木淳・昭和設計JVによる案の模型(写真:宮沢 洋)
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青木淳・昭和設計JVの面々。右から昭和設計の松田善弘氏、青木淳建築計画事務所の青木淳氏と品川雅俊氏、金箱構造設計事務所の金箱温春氏(写真:宮沢 洋)
青木淳・昭和設計JVの面々。右から昭和設計の松田善弘氏、青木淳建築計画事務所の青木淳氏と品川雅俊氏、金箱構造設計事務所の金箱温春氏(写真:宮沢 洋)
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 2次審査の会場は松本市中央公民館(Mウイング)6階ホール。会場で一般市民が傍聴(コロナ対策のため80人上限で事前登録)したほか、開始から終了まですべてがYouTubeでライブ配信された。

会場風景(写真:宮沢 洋)
会場風景(写真:宮沢 洋)
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ライブ配信されたYouTubeの映像。最終段階の審査員による議論の様子(画像:長野県)
ライブ配信されたYouTubeの映像。最終段階の審査員による議論の様子(画像:長野県)
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 審査委員は、古谷誠章早稲田大学教授(委員長、建築分野)、早部安弘早稲田大学教授(建築分野)、関邦則長野県建築士会名誉会長(建築分野)、上林功追手門学院大学准教授(スポーツ分野)、宮城俊作東京大学大学院教授(ランドスケープ分野)、町田誠国土交通省PPPサポーター(公園分野)の6人。

 建設地は信州まつもと空港に隣接する松本平広域公園(松本市今井)内の敷地約36万6000m2。現陸上競技場(延べ面積9723m2)の解体跡地に、延べ約2万m2の新陸上競技場を建設する。27年開催の第82回国民体育大会・第27回全国障害者スポーツ大会の会場に予定されており、「日本陸上競技連盟第一種公認仕様に適合すること」「国体などの式典会場となるため、仮設スタンドなどの設置により、2万人を収容できるように計画すること」「雨天走路は、メインスタンドまたはバックスタンド内に130m程度の直線として設けること」などの条件が出された。直接工事費は約88億円(設計監理費や消費税などを除く、20年2月時点)。基本設計業務の履行期間は21年2月26日まで。

既存の陸上競技場(写真:長野県)
既存の陸上競技場(写真:長野県)
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 設計者選定は公募型プロポーザルにより、2段階選考で実施された。参加条件は、(1)一級建築士事務所の登録を受けていること、(2)単体もしくは設計共同体(構成員の数は3者以内)であること、(3)次のいずれかの新築、増築または改築の基本設計または実施設計の実績があること──(ア)陸上競技場、野球場、サッカー競技場などのスポーツ競技場の用途に供する建築物で延べ面積が1万m2以上、(イ)体育館などの屋内運動施設の用途に供する建築物で延べ面積が5000m2以上(設計共同体にあっては代表構成員の実績、その他の構成員の実績は不要)など。

 槇総合計画事務所は「東京体育館」(1990年竣工)などの大規模スポーツ施設を設計した実績がある。JVを組んでの参加となった環境デザイン研究所も「広島市民球場」(2009年竣工)、青木淳建築計画事務所も「杉並区大宮前体育館」(14年竣工、延べ面積5685m2)の設計実績があり、実績に関しては単独でも条件を満たす。

 参加表明書類の提出期間は20年3月23日から3月27日、1次審査書類の提出期間は4月14日から5月22日までだった。計8者から応募があり、6月13日の1次審査(提案書による書類審査)で3者が選ばれた。既に公開されている1次審査の「総評」では、こうコメントされていた。「3つの案に可能性があり、比較するにふさわしい、際立ったものとなっている。(中略)参加者3番の槇事務所は、一番提案がうまくまとまっている」。この文章を読む限りは、槇事務所優位とみられた(1次審査の経緯については後述する)。

青木JVは1次審査の懸念点をつぶして臨む

 プレゼンテーションの順番はくじ引きで決まった。青木淳・昭和設計JV、槇総合計画事務所、環境デザイン・林魏・倉橋建築JVの順番だ。各者の持ち時間は15分。

 トップバッターは青木淳・昭和設計JV。同JVの案は、競技場に求められる諸機能をリング状に閉じずに分散させた大胆な提案だ。今回のプロポーザルは1次審査時の委員の意見が2次審査の前に公開されていることも特色だ。1次審査での意見を見ると、案の特徴が分かるだろう。

青木淳・昭和設計JVの1次審査案(資料:青木淳・昭和設計JV)
青木淳・昭和設計JVの1次審査案(資料:青木淳・昭和設計JV)
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  • すごく挑戦的な案である。建屋というよりは、諸室が公園内に点在している。テニスコートとサブフィールドを結ぶ経路がそのまま陸上競技場のバックスタンドの屋根になっている。トロントの陸上競技場に雰囲気が近い。オペレーションや風雨などを考えると、運営側の覚悟がいる案である。逆にいうと、運営とのバランスを取りながら調整しすぎると、この案の魅力を引き出しきれない。こういう陸上競技場があることによって、1つの価値になりそうなことを考えると、ものすごく挑戦的な案だと思う。
  • これからの公園の在り方を考えたときに、町を公園の中に連れ込む、町そのものが公園の中に存在するようなつくり方が理想だと思う。この案を見たときに、このようなことが考えられていると感じた。ただし、陸上競技場の1種公認を受けるのは難しいのではないか。
  • かなり大胆な発想をしている。コロナ後の陸上競技場の在り方、つまり今までのみんなが傘に入ってみんなで競技に集中しているというスタジアムから、日常的に散漫に開かれているこの案のようになっていくのではないか。
  • 「国民スポーツ大会」となる国体がどのように変わっていくべきなのか。積極的に提示しようとすると、新しいスタジアムの形としてこういう提案もこれからの1つの在り方ではないかと感じる。
  • 参加者の実績にもある体育館(「杉並区大宮前体育館」を指すと思われる)は、コンペ提案時は今までの体育館の概念を覆すような案だったが、出来上がったものは比較的普通の体育館であった。諸団体とのやり取りの中で普通の案になってしまったと聞いている。今回も挑戦的な案ではあるが同じようにならないか懸念している。
  • 県の覚悟が求められる。逆にその覚悟さえ決まれば、世界初のものにはなりそう。それこそ長野Uスタジアムという日本で初めての三方スタンドの施設があったりするが、そういうものが長野から出ているというのがすごく面白い。
  • 体育館の話はよく分かる。これまでの陸上競技場の概念を覆すような非常にパワーを持った提案スタイル。ここで判断するというよりも、やっぱり2次で聞いてみたい。おそらくいろいろ研究されていそうなので、それについても聞いてみたい。
  • インフィールド、アウトフィールドがあり、競技場というよりもスポーツの公園としているのが非常にユニークだと思う。大屋根の先にあるテニスコートの位置、レイアウトを少し動かすことができるともうちょっと可能性が広がるかなと感じた。

 斬新な提案に魅力はあるが、よく分からない点も多い──そんな議論だ。2次審査に際して、青木淳・昭和設計JVは、提案書のトーンをがらりと変えてきた。色数を抑えて、図面にびっしりとポイントを書き込むスタイルだ。

青木淳・昭和設計JVの2次審査案(資料:青木淳・昭和設計JV)
青木淳・昭和設計JVの2次審査案(資料:青木淳・昭和設計JV)
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 2次審査のプレゼンテーションに臨んだのは、青木淳建築計画事務所の青木淳氏、昭和設計の松田善弘氏、金箱構造設計事務所の金箱温春氏の3人。

 青木氏は、「イベントのないときにどう使うか」「日常的に使える空間」の説明に力点を置いた。資料にはないが、15分のプレゼンテーションのうちの3分ほどを、既存施設の利用率データの説明に使った。「既存の陸上競技場は年間24%しか使われていない」ことなどを指摘し、いかに非使用時の在り方が重要かを強調した。

既存施設の利用率について説明する青木氏(写真:宮沢 洋)
既存施設の利用率について説明する青木氏(写真:宮沢 洋)
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 プレゼンテーションの後半は昭和設計の松田氏が、自身の担当した長居陸上競技場を例に出しながら、「競技場としての区画を明確に形成できる。かつフレキシブルに使える」「コストダウンがしやすい」などの利点を強調した。

競技施設としての機能面を説明する昭和設計の松田氏(写真:宮沢 洋)
競技施設としての機能面を説明する昭和設計の松田氏(写真:宮沢 洋)
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 プレゼンテーション後の質疑(3者合同)では、外観のシンボル性について質問があり、青木氏は「外から見られる象徴性ではない」「そこに居て感じるモニュメンタリティーやシンボリックさを大事にしたい」と答えた。