岩手県住田町は、滝観洞(ろうかんどう)受付施設の設計者を選ぶ公募型プロポーザルで、最優秀賞にアトリエハレトケ(東京・大田)と武山大樹建築設計事務所(東京都西東京市)の2社によるJV(共同企業体)を選定した。優秀賞は保坂猛建築都市設計事務所(東京・新宿)だった。同プロポーザルでは、59者が参加表明書を提出し、うち50者から技術提案資料が寄せられた。
滝観洞は、洞窟内としては日本でも屈指の規模の滝を有する鍾乳洞だ。住田町内有数の観光資源だが、1983年をピークに入洞者数は減少の一途をたどっていた。観光地としての魅力を阻害する要因の1つが施設の老朽化にあると捉えた町は、入洞のための受付施設などの再整備計画案を作成。プロポーザルでは、次の提案課題に対する考え方や実施方針の記載を求めた。
(1)周辺環境との連続性:外観の意匠や半屋外空間に対する考え方。周辺環境に配慮し、それらと一体的な景観を形成するよう配慮すること、(2)諸室の配置:管理者動線と来客者動線に対する考え方。既存水車小屋との関係に配慮し、狭小敷地を最大限生かした計画とすること、(3)地域産業の振興:林業・木材関連製造業や、地域に根差した技術を利用した構法に対する考え方。極力町内で生産可能な素材による構法とすること。
最優秀賞に選ばれたアトリエハレトケ・武山大樹建築設計事務所JVの案では、JR釜石線・上有住駅方面に向かって下がっていく階段状のボリュームとすることで、奥にある食堂や滝流しそば体験スペースまで見通すことができる。スギなど地場産の木材を積極的に使用することで、町民の愛着を育み、町外へ発信できるシンボルとなることを目指す。
アトリエハレトケの長崎辰哉代表は今回の提案について、次のように説明する。「滝観洞はもちろん、観光センターやSL、上有住駅など、敷地を取り巻く緑豊かな風景同士をつなぎ合わせる居場所を生み出す。既存の環境を阻害しないよう、風通しが良く、周辺環境と一体的な景観を形成することをテーマとした」
また、これから基本設計・実施設計と進むに当たって、「現地を訪ねて、滝観洞を取り巻く豊かで美しい自然に心を奪われた。この場所の魅力を体現できるような建築を、町の皆さんと対話を重ねながら考えていきたい。誇りを持って後世に受け渡すことのできる、現代だからこそできる建築をこの地に生み出したい」とコメントしている。