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伊本貴士
伊本貴士
メディアスケッチ代表取締役 兼 コーデセブン CTO、サイバー大学客員講師

 思うところがあって、ITエンジニアの人生を変えるかもしれない非常に重要なことについて今回は書いておこうと思います。

 私が最初に就職したNECソフト(現NECソリューションイノベータ)を退社したのは12年ほど前のことです。「次はベンチャー企業で新しいことをやりながら新規事業立ち上げのノウハウを学びたい」と思っていたのですが、転職先の企業を探しているうちに面白いことに気が付きました。

 アクセンチュアやIBMビジネスコンサルティングサービス(現在はIBMと統合)など、いわゆる「ITコンサルティング」と定義されている企業の待遇が、他の企業に比べてものすごく良いということに気がついたのです。調べてみると、大手ITコンサルティング企業の年収は30歳前後で800~1300万、40歳以上になると1500万円以上となっていました。

 なぜこれほど給料が高いのかといえば、単純に、ITコンサルタントは一般的なITエンジニアの3倍稼ぐからです。一般的な大手IT企業でも人月単価(1カ月開発する場合の1人当たりの価格)は100万円程度なのに対し、ITコンサルティング企業の単価は3倍といわれています(もちろん、実際の単価はそれぞれの企業ごとに違うのであくまでも一般論です)。3倍も稼ぐのですから、給料は高くて当然です。

 なぜ、ITコンサルタントは、それほど高い単価で契約が可能なのか、その価値はどこにあるのか非常に興味が湧きました。そうした経緯から、私は一部上場のITコンサルティング企業に就職することにしました。

ITコンサルとITエンジニアの年収は3倍違う

 IT企業出身者が ITコンサルティング企業の採用面接を受けると、まず説明されるのが「IT業界とITコンサルティング業界は別業界である」ということです。

 ITコンサルタントも、システムの企画・開発を行います。それだけを考えると、IT企業時代と同じことをやればいいように思えてしまいます。ところが、そうした認識でITコンサルティング会社に来てはいけないと何度も釘を刺されます。

 私の体験も含めて、具体的にどのような点で違うのかを挙げてみます。

[1]単価が違う。つまり、非常に高い顧客の期待度があり、一般的なIT企業に所属するITエンジニアに比べて、ITコンサルタントは圧倒的な価値を顧客に証明しなければいけない。

[2]ITコンサルタントは、高度なITの知識は持っていて当たり前。開発などもできて当たり前。それに加えて、顧客の業務に関する知識や一般的な経営戦略、経済に関する知識など幅広い分野についても勉強し、把握しておかなければならない。

[3]一般的なIT企業の場合は、課長や部長といった役職の人に対して提案や交渉を行う。これに対し、ITコンサルタントの場合は社長や役員といった役職の人に対して提案や交渉を行う必要があり、そのための高度な知識と度胸と高いコミュニケーション力が必要となる。

[4]ITコンサルタントは多くの企業で年棒制や年間契約となっており、一般的な正社員とは違う場合がある。つまり、会社から終身雇用や安定した給料を保証されていないことが多い(企業によって制度に差がある)。

[5]ITコンサルティング企業には特定の部署はなく、新人であっても各プロジェクトから面接を受けて配属が決まる。逆に言えば、社内から需要がない場合は何もせずに過ごすことになり、評価は最低となる。このように常に社内外から評価を受ける環境にある。

 つまり、個人事業主ではないものの、それに近いようなポジションで存在するのがITコンサルティング企業のコンサルタントです。決して精神的に楽な職業ではなく、平均勤続年数は非常に短い傾向があります。

 「誰かが指示してくれる、誰かがやってくれる」というような考えはご法度であり、場合によっては即退場となる厳しい世界です。「そこそこの給料分の仕事をすればいい」「自分の担当分だけをやればいい」という考えもご法度で、予定通りできて当たり前。それ以上の価値を出すことを要求されます。そのため入社時に「IT業界と同じ考え方のまま、ITコンサルティング業界に入ってはいけない」と釘を刺されるというわけです。

 ITエンジニアの人は、自分を3倍以上の価値で売って、なおかつ相手を満足させることができるかどうか、1度考えてみましょう。世の中にはそのレベルに達するITエンジニアからITコンサルタントという高度な職業に就く人たちがいるということです(実際には、大したスキルもないのに形だけITコンサルティング企業を名乗っている会社もあります)。