全2918文字

なぜ「適正化」と言わないのか

 そもそも疑問に思うのは、この方法に意味はあるのかという点です。上述の経緯を追うと分かる通り、受注側のIT企業はもちろん、発注側の企業も利用する顧客も、誰も得をしていないのです。

 発注側が言っているのは、「支払いは減らすけど、サービスレベルは下げるな。当然セキュリティー事故も起こすな」ということ。これは「発注ハラスメント」以外の何ものでもありません。

 こんな発注ハラスメントでIT企業を追い詰めるからこそ、日本中を騒がせる炎上案件があまた発生しているです。いいかげんに発注側の経営者もこの事実に気づくべきです。

 目標とすべきは根拠も見境もないコスト削減ではなく、「コスト適正化」です。必要なものにはコストをかけ、必要でないものにはコストをかけない。価値の高いものには高い報酬を支払い、価値の低いものには報酬を低くする。こうしたごく当たり前のことをすればよいだけです。

 コスト適正化を実行するためには、発注側だけではなく受注側も協力し、どれくらいの価値があり、どのような経営インパクトがあるかを共有した上でプロジェクトを進めなければなりません。そのためには、受注側が「発注側の言われた通りにやればよい」という姿勢でいてはいけません。そんな姿勢では、発注側から言われるがままに経費がどんどん削減され、炎上プロジェクトという奈落の底に落ちていくだけです。

 ただ、発注側と受注側の間で価値を共有するのは、大きな信頼関係なしでは難しいというのも事実です。だからこそ、外部プロジェクト監査という第三者が必要なのです。発注側と受注側の両方の言い分を公平にジャッジしてつなげるという、非常に大きな役目を果たす人をプロジェクトに入れるべきだと思います。この話題については別の機会に譲りましょう。

 いずれにせよ、発注側、特に大企業は「コスト削減」という組織を混乱させる目標を掲げることをやめ、「コスト最適化」という当たり前の活動を始めてください。

 一方で、受注側も根拠のない発注額の削減には断固として拒否するという交渉姿勢を持ってください。目先の受注にこだわると、自らの首を絞めてしまうだけではなく、業界全体に悪影響を及ぼすことになるからです。

 そして、ここまで書いてきたことが、エンジニアの低賃金と炎上プロジェクトの増加につながっているのです。今後、技術進化に伴ってITプロジェクトの高度化と複雑化は増していきます。現行のやり方のままで日本のITシステムは時代に付いていけるのかどうか、私は非常に危惧しています。