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 「彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」──。孫子の『兵法』にはこう書かれています。私自身、経営者として日々の難題に立ち向かうとき、こうした兵法書に助けられることがあります。競争相手となる組織がどのような実力を持っており、次にどう動くのかを知る。同時に、自分たちにどれだけの力量が備わっており、人材が育っているのかを知る。これはビジネスにおいても非常に大事なことだと思います。

 先日、東芝に英国の投資ファンドが買収を提案しているというニュースを知りました。私の中で、日本をけん引してきた企業が海外資本の買収対象になってしまう現実への寂しさと、実力は十分にある組織なのだから、買収などされなくてもやっていける実力はあるだろうという思いが湧いてきました。

 とはいえ、大企業の経営はそれほど単純な判断でできるものではありません。経営危機と言われている中において、今後ライバル企業に先手を打つ形で攻めの経営を行うには、経営基盤の強化が必要であり、そのためには「物言う株主」との対立から脱却しなければならないという考え方も、理解はできます。

 買収を受けるにせよ拒否するにせよ、孫子の兵法にある通り、今の東芝に必要なのは、競争相手の実力をよく理解し、自分たちの価値を再認識することだと思います。そうでなければ、自らを非常に安値で売ってしまう可能性があります。

 東芝は2015年の不正会計問題や米国の原発子会社における巨額損失がきっかけで経営危機に陥ったわけですが、いずれも実力の問題ではありません。技術の観点から東芝を見ると、パワー半導体に関しては非常に高い技術力を持っていると思います。電気自動車(EV)やロボット、脱炭素化が進む電力など、今後の成長が期待される分野で強みを持つというのは大きな武器です。

 既に東芝はシステムLSI(大規模集積回路)などの新規開発から撤退する方針を発表しています。今後はパワー半導体などの増産を行い、アナログICの一部に注力すると思われます。デジタルICが注目される昨今、デジタル技術が進むと同時にアナログ系の半導体の需要も伸びることは、昨今の半導体不足が証明しています。

* 東芝は2020年9月に、車載向け画像認識などのシステムLSIやアナログICの一部、マイコンの新規開発から撤退すると発表している。