植物由来の新材料「セルロースナノファイバー(CNF)*1」を利用した自動車部品の開発が、環境省の事業「NCV(Nano Cellulose Vehicle)プロジェクト」で進められている。デンソーやトヨタ紡織、京都大学などの組織が参加しており、2020年度に自動車の質量を約10%軽量化する目標を掲げる。
2018年6月には研究成果を披露するため、トヨタ「86」の部品を一部試作・適用して展示(関連記事)。2019年に開催予定の「東京モーターショー」で、CNFを最大限用いたコンセプト車の展示も予定する。
なぜCNFの研究開発が盛り上がっているのか、CNFを利用する意義は何か――。同プロジェクトのリーダーで、京都大学生存圏研究所生物機能材料分野特任教授の臼杵有光氏に聞いた。(聞き手は野々村洸=日経 xTECH/日経ものづくり、近岡裕=日経 xTECH)
木材などの植物繊維を化学的・機械的な処理によってほぐした、直径が3~数十nmの繊維。このCNFを樹脂に混ぜて成形すると、軽量で高強度なCNF強化樹脂ができる。

どのような経緯でCNFと関わるようになったのでしょうか。
CNF研究の第一人者である京都大学の矢野浩之さんに声を掛けていただいたのがきっかけです。もともと私は豊田中央研究所の研究者でした。京都大学には兼任で籍を置いています。
豊田中央研究所では、樹脂の複合材料を研究してきました。例えば私が手掛けた技術の一つに、樹脂中に粘土(クレイ)をナノ複合化した「ポリマークレイナノコンポジット」があります。ポリマー中にナノ化した粘土を分散させると、複合材料の性能が向上するという世界初の発見でした。粘土は水に分散すると、粒子が液体中にナノ化して存在するようになります。その粒子に対して表面処理・疎水化処理を加えて、ポリアミド6という樹脂にナノ化した状態で分散する研究をしていたのです。
矢野さんは私と知り合った当時から、私がナノ複合化の研究者であると知っていたようです。会う度に「セルロースで複合材料を生み出したい」という熱のこもった話を聞きました。もう十数年来の付き合いになります。