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営業を超える営業

 独自技術の開発で他社と差異化してきた小板橋氏だが、そのこだわりは営業方針にも表れている。

 「営業をやれと言われるから、営業の枠にはまってしまう。私は、営業をしなくても仕事が舞い込んでくる方法を常に意識している」と、同氏は話す。実はその手法には、中小企業にとどまらずどんな企業にも当てはまる本質的な営業のあり方が潜む。

 1つは「得意技を明確に示す」ことだ。プラスチック射出成形機の型締め力は、大手企業が使う大型機では2000tf(19.6MN)以上で、中小企業が保有しているのは大体100tf(980kN)程度のことが多い。つまり、中間の220~300tf(2.2~2.9MN)に対応している企業は少ない。ジュンコーポレイションはこのクラスの型締め力の成形機をそろえ、他社と分かりやすい差異化を図っている。

写真4:工場内で筆者らに説明する小板橋社長
写真4:工場内で筆者らに説明する小板橋社長
(写真:ローランド・ベルガー)
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 伝える技術にもこだわりを持つ。小板橋氏は営業しまくらずに安定した売上高を確保するため、他社に先駆けていろいろなやり方を試してきた。

 例えば、Webサイト。ネットの黎明(れいめい)期に、ホームページ作成ソフトウエアを買ってきて自ら同社のWebサイトを立ち上げた。SEO(検索エンジン最適化)対策も早い時期から行っていたという。実際、現在もそれが生きており、「ガスインジェクション」でWebサイトを検索すると、同社の情報が最初に表示される。

ニーズ起点の技術活用

 「顧客ニーズに応えられる技術」を見せることにもこだわる。例えば、そのこだわりが見事に当たったのが、70数社が参加したスズキの展示会。急きょ、会長の鈴木修氏が来場することになり、結果、ジュンコーポレイションは鈴木氏に直接提案をプレゼンテーションできる3社の1つに選ばれた。しかも、本来の提案時間である1分を大幅に超えて、15分も話を聞いてくれたという。

 実は小板橋氏には作戦があった。自動車メーカーに提案するならキーワードは2つ。「軽量化」か「コストダウン」しかない。そこでスズキの展示会では、同社が要求するであろうニーズを徹底的にリサーチ。「小少軽短美」というキーワードを見つけ出し、「小には、XXという技術を、少にはYYという技術を提供できます」といったプレゼンを準備した。しばしば「技術があれば高くても売れる」といった趣旨のことを言う人がいるが、技術だけでは絶対売れない。その技術が相手のどこにどうマッチするかを提案できて、初めて仕事になるのだ。

 ジュンコーポレイションの提案は、コスト面でも圧倒的だ。例えば自動車のカップホルダーは、通常はピアノブラックで塗装してあり、1800円ほどかかる。しかしジュンコーポレイションには、塗装レスできれいな色と表面性状を実現する「ヒート・アンド・クール技術」がある。あらかじめ150℃ほどに加熱した金型にプラスチックを充てんした後で急冷するという技術で、塗装が要らないため、なんと150円にまでコストダウンできるという。

 ただし、失敗もある。例えば、4つの特許を結び付けるとこんな製品が出来るとトヨタ自動車に提案したことがある。従来技術では不可能な独特の意匠デザインを実現できる技術だったが、「ジュンコーポレイションでなければ出来ないのなら要らない」と却下されたという。特定の1社しかできない技術では世界展開できないため、採用できないとのことだった。この時、「シーズ起点の提案ではダメだ」と感じたという。

可能性を広げる行動力

 小板橋氏の感覚は独特だ。営業には顧客からの信用が欠かせない。その信用を勝ち取るには技術のこと、および相手のことを相当勉強しなくてはならない。ただ、小板橋流にはさらにその先がある。徹底的に準備した後、恥をかく、弱みを見せるのである。自分が極めてきた専門を超えた質問が相手から発せられたとき、普通はたじろいでしまいがちだが、同氏は臨機応変に「そこは一緒にやりましょう」「それはうちでできないからお願いします」と言って「Win-Win」の関係に持っていくのだ。

 そんな小板橋氏が今でも大失敗だったと思っていることがある。それは、自動車メーカーからプラスチック製ステアリング部品を開発してくれないか、との話が舞い込んだ時のことだ。そのときは、ステアリング本体のみならず、電装系やエアバッグなどの部品点数と大量生産を想像してしまい、ジュンコーポレイションの仕事ではないと思って断った。しかし、断った帰り道、よくよく考えて後悔したという。実は、当時近くの外資系大企業が撤退するとの話が持ち上がっていた。そこを買えば、工場も人も何とかなるじゃないかと。例えば、最初は1000個の生産から試すという手もあったかもしれない。それだったらできるはずだ。チャンスをつかみ損ねた自分が許せず、いつでも心と頭を準備しておきたいと思ったという。その後は、いろいろな妄想を巡らせて、どんな依頼があっても常に対応できるようにしている。