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 六本木のメルセデス・ベンツの施設で現在催されているメルセデス・ベンツとポーラの共同イベント「POLA Voice makeup spheres」(2019年7月4日~9月30日)、実際に蒸気で動くライブスチーム鉄道模型、ステンレス鋼製のスタイリッシュな名刺入れ「FLIP」――。

 これらは全て精密板金加工やプレス加工を手掛けるメーカー海内(あまうち)工業(本社横浜市)が携わったプロジェクトである。高品質・高精度、多品種・小ロット、そして短納期を強みとする同社の価値を象徴する取り組みだ。

 実は我々が日々当たり前に使う製品の中にも、同社が造った部品が使われている。金融機関のお札の搬送面、POSシステムや医療機器のセンサーやシャフトの取り付け部・しゅう動部など、普段人の目に触れることのないさまざまな箇所に、創業から50年をかけて積み重ねてきた技術を惜しみなく投入している。

設計者とすり合わせて仕事をしてきた

 「決して安くない当社の部品をお客さんが買ってくれる理由は、特に機能部材のバラツキの小ささと、コミュニケーションを通しての仕様のすりあわせにある」。海内工業社長の海内美和氏はこう語る。近年は前述のような社外と連携したプロジェクト活動が目立っている同社だが、強みはあくまで本業の精密板金加工。創業以来、大手メーカーを含めて購買部門ではなく直接設計者の声を聞きながら量産提案を踏まえた部材加工を一貫して行ってきた。

図1:加工の難易度の高い丸身を帯びた形状の加工部品
図1:加工の難易度の高い丸身を帯びた形状の加工部品
(写真:海内工業)
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 もともと同社は営業が得意ではなく、職人気質の社風が際立っていた。そのため、面倒で手間がかかって造り方も確立していないような案件を、会社存続のために手掛けてきた。板金メーカーとしては後発だったこともあり、難しい案件に愚直に取り組み、設計者と擦り合わせながら「どうやったらできるか」を追求しながら仕事をしてきたという。難しい案件を引き受けたことで技術が磨かれていったのだ。

 結果として、同社は顧客の購買部門よりも設計者と密につながった。それを象徴するのが、「BANKIN GUIDE」というWebサイト。精密板金加工を詳しく解説したもので、購買よりも図面を描く設計者に直接リーチできるようにと、マーケティングの一環として海内社長が営業業務部長時代に造った。いまでも、「小さなコミュニティーにおける設計者の口コミ」(海内氏)により仕事が絶えないという。

図2:海内工業の自社技術解説サイト「BANKIN GUIDE」
図2:海内工業の自社技術解説サイト「BANKIN GUIDE」
(出所:同サイト)
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 BANKIN GUIDEには、「適切な使い方」、「読み解けばそうだよね」という内容が満載だ。“ステンレス鋼は「さびない」のではなく「さびづらい」”、“SUS304は高い”などなど。技術者が欲しい知識やノウハウを効果的に提供している。そこには「自社ノウハウの流出」などという意識はない。結局は、将来の新規顧客である設計者やエンジニアからの問い合わせにつながるからだ。月に10件程度は問い合わせがあり、リピートにつながる顧客も多くいるという。