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 IoTやデータ活用で企業が成果を上げるには――。日経 xTECHは、日本を代表するCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)、データサイエンティストなど約40人に集まってもらい、「ITイノベーターズ会議」を開催(2018年5月31日)。「花王とJAL、IoTとビッグデータの現状」をテーマにパネルディスカッションを実施した。登壇者は、花王と日本航空(JAL)グループでデータ活用をけん引するキーパーソン3名と、データ経営に精通しているコンサルタント2名。

「花王とJAL、IoTとビッグデータの現状」をテーマにパネルディスカッション
「花王とJAL、IoTとビッグデータの現状」をテーマにパネルディスカッション
(写真:井上 裕康、以下同じ)

登壇者

日本航空 Web販売部1to1マーケティンググループアシスタントマネジャー 渋谷直正氏
JALエンジニアリング 技術部技術企画室 谷内亨氏
花王 マーケティング開発部門デジタルビジネスマネジメント室長 永良裕氏
アビームコンサルティング P&T Digital CRMセクター シニアマネージャー 長坂秋人氏
アクセンチュア デジタルコンサルティング本部マネジング・ディレクター 河野真一郎氏
(以下、敬称略)

JALのデータ活用の現状と課題は何ですか。

渋谷 私の所属するWeb販売部は、当社のECサイトを運営する部門です。航空券などをより多く買っていただくことがミッションで、そのためにデータ分析しています。

「ごみを入れてもゴミしか出てこない」と渋谷氏
「ごみを入れてもゴミしか出てこない」と渋谷氏

 課題は、分析に使用するデータの前処理です。「ごみを入れてもごみしか出てこない」というデータサイエンティストの格言があります。予測に必要のない変数を取り除いてから学習させることが重要です。予測精度を大きく左右するためです。どうすれば、よりよい選択ができるかどうかに悩んでいます。

解決するためにどんな手を打とうとしていますか。

渋谷 今、検討しているのは、データ分析の前処理を人工知能(AI)に任せることです。従来は人間の仮説が必要だったのですが、人間がやっていると仮説のパターンが似てきてしまいます。そこで、AIにやらせてみようと考えているわけです。

谷内さんは、JALの整備部門でIoTを活用しています。どのような取り組みなのですか。

谷内 飛行機のエンジンや装備品などの部品に取り付けたセンサーを経由して取得したデータや、整備履歴を分析しています。それらのデータに基づいて、不具合が発生する前の予兆検知に取り組んでいます。故障しそうだということを予測し、対象になった部品を事前に交換するなどして、欠航や遅延などを未然に防いでいます。

「データ分析は地道に泥臭く進めるしかない」と谷内氏
「データ分析は地道に泥臭く進めるしかない」と谷内氏

故障の予測というのは容易にできるものなのですか。

谷内 いえ。簡単ではありませんでした。我々は、日本IBMの協力を得てプロジェクトを立ち上げましたが、当初は苦労しました。ビッグデータ分析について、「大量のデータをコンピュータに入力すれば何かしらの知見が得られるもの」ぐらいに考えていましたが、そんな甘いものではありませんでした(苦笑)。

 先ほど渋谷が指摘したように、データのクレンジングが難しいわけです。分析に使うデータそのものが、異常値なのか正常値なのか。これを判断するためには、整備業務のプロである整備士の知見が必要になるのです。単純にコンピュータにデータを入力すれば、これまでの課題が解決されるなんてことはないということです。

 ほかにも苦労したことがあります。「この切り口でデータを分析すれば、故障の予兆が見つかるのではないか」という仮説を立案することです。データ分析の切り口を見つけ出すためには、1件ずつ検証するしかありませんでした。ここに近道はなくて、「地道に泥臭く進めるしかない」と実感しています。