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 新機種を設計する場合、コストの高い外装部品などを中国から調達してコストの低減を図るのは一般的です。ましてや製品の組み立てを中国の工場で行う場合、現地調達する部品はさらに増えます。ほとんどの日本のものづくり企業が「現地調達率95%達成」などの目標を掲げているはずです。

 現地調達する部品としては、ビスやナット、ハーネスや基板のホルダー、クッションなどの汎用品/標準品(カタログ品)も含まれます。しかし中国駐在時代から私は、汎用品についてはあえて、あまり現地調達にこだわっていませんでした。

 それは、[1]模倣品によるトラブルの危険性がある[2]日本からの直輸入の方が安い場合がある[3]ほとんど日本製でも中国製になってしまう、という3つの理由があるからです。今回は、汎用品の現地調達について詳しくお伝えしたいと思います。

模倣品によるトラブルを実際に体験

 私が中国に駐在し、日本の設計者と中国の部品メーカーとの橋渡しの仕事しているときの経験を紹介しましょう。当時はプロジェクターの製品化に携わっており、その製品は日本で試作し、中国で量産するという分担でした。

 量産開始が間近になり、この製品の底カバーの承認品が成形メーカーから私の元に送られてきました。承認品とは、量産の開始前に部品メーカーから送られてくる「量産品と同等の部品」です。これを設計側で承認すると、この部品の量産が開始されます。この底カバーは樹脂製で、ほぼ中央に4個のインサートナットが溶着で埋め込まれていました(図1)。

図1 一般的なインサートナット
図1 一般的なインサートナット
樹脂部品に埋め込んで使用する。(出所:ロジ)

 このインサートナットの役割は、プロジェクターを逆さにして天井から吊り下げるためのものです。私は承認品の主だった寸法や外観、他部品との嵌合具合などを確認した後、インサートナットの抜去力を測定しました。抜去力とは、インサートナットを底カバーから無理やり引き抜いて外すのに要する力の大きさです。

 底カバーの図面に表記されている抜去力の値を満足することは当たり前ですが、承認品での確認で大切なことは試作品の抜去力との比較です。さまざまな強度試験を試作品で行なっているので、もし承認品の抜去力が試作品の抜去力より低い値であると、強度試験のやり直しが必要になってきてしまうからです。

 私は、既に日本から入手してあった試作品と抜去力を比較しました。すると、驚いたことに承認品の抜去力が試作品より大幅に低かったのです。抜去力に差異があった原因としては、[1]インサートナットを埋め込む穴の形状[2]溶着する条件[3]インサートナットのいずれかが異なると考えられます。