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 私は前職での中国駐在時、数多くの見積もりを中国の部品メーカーに依頼してきました。現在でも日本企業から頼まれて中国部品メーカーへ見積依頼するのですが、やる気のある「本気度」の高い見積もりを引き出すのはなかなか困難です。高額な「お断りの価格」を見積価格として出されるケースが多いのです。中国部品メーカーにとって初めて取引する企業からの見積依頼という点に加えて、最近の日本の企業の発注は小ロットがほとんどだという背景があります。今回は中国における見積依頼の注意点について解説します。

見積依頼の3つの基本

 まず、見積依頼の基本を3つお伝えします。それは、[1]見積明細書を提出してもらう、[2]1つの部品で1つの見積依頼とする、[3]メーカー選定のための見積図面は極力最終仕様にする、です。どれも当たり前の話ですが、日本の部品メーカーに依頼するときなら厳密に守らなくてもあまり問題とならないかもしれません。

 しかし、中国部品メーカーに見積依頼する際には異なります。この3点を注意して厳守しないと、とても面倒な事態に発展したり、部品メーカーとの信頼関係が揺らいでしまったりする可能性があります。

 まず[1]見積明細書を提出してもらう、について説明します。見積明細書には材料費や加工費、管理費などが記載されており、見積価格が適切であるかどうかを確認するために必要です。企業間の信頼関係を保つためにも提出してもらうべき書類です。

 例えば、量産中のある部品の塗装をやめてコストダウンを図ろうとしたとしましょう。この部品は単価500円で購入しており、そのうち塗装費は約200円と想定していました。よって無塗装化によって部品単価は約300円になるはずです。

 ところが、部品メーカーに再見積もりすると400円と回答してきました。100円しか価格が下がらない理由を知りたくても、見積明細書がなければ従来の単価(500円)の内訳は分かりません。400円で納得するしかないのです。

 相手が日本の部品メーカーであれば見積明細書がなくても、「塗料代と塗装費がなくなり、不良率も下がるはずです」といった交渉の余地があります。しかし、中国の部品メーカーにこちらの言い分を理解してもらうのはとても困難です(図1)。まず中国にいる日本語通訳を相手に交渉する形になりますが、メールや電話でこのような込み入った交渉はほぼ不可能でしょう。さらに交渉相手である日本語通訳に価格の決定権がなければ、「担当者が400円以下にはならないと言っている」という回答が来るだけ。交渉の余地は全くありません。結果、日本側に中国部品メーカーへの不信感が生まれかねないのです。こうした事態を未然に防ぎ、企業間の信頼関係を維持する第1歩が、見積明細書なのです。

図1 見積明細書なしで中国部品メーカーとの交渉は難しい
図1 見積明細書なしで中国部品メーカーとの交渉は難しい
コストダウンで削除できる費用を日本語通訳に説明しても、見積明細書が無いと理解してもらえない。(イラスト:闇雲)
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