中国メーカーに部品や製品の製造を依頼すると、なぜか不良品などのトラブルが起こります。しかしその本当の原因は中国に無理解な⽇本⼈設計者にあることが少なくありません。駐在の4年半を含めた7年間、中国でのものづくりに関わった私が、失敗経験を紹介しつつ、その理由を分かりやすく解き明かそうというのがこの連載の趣旨です。
前回は、中国の「ヒト」「コトバ」「モノ」を理解することの大切さをまず簡単にお伝えしました。今回はこのうち「ヒト」に関して、つまり「中国人の国民性と仕事の仕方」について、私の失敗経験を交えて、さらに詳しく解説したいと思います。
「中国、ゴメン」日本人設計者反省日記 第1回:「ハズじゃなかった中国メーカーとのトラブル、実は日本人設計者に原因アリ」最初はカバーの成形不具合かと思ったが…
私がソニーでプロジェクターの新製品を設計していた頃の話です。そのとき私は、プロジェクターを量産する中国の工場と同じ建物の中にある設計事務所で働いていました。量産が始まり2〜3カ月たったある日、プロジェクターの量産ラインの担当者から突然連絡が入りました。「プロジェクターの外装のトップカバーが取り付けられないので、見に来てほしい」と言うのです(図1)。
最初はトップカバーの成形不良かなと思いました。たまたま正しい形に仕上がっていないロットの部品が届いてしまい、嵌合(かんごう、はめ合わせ)がうまくいかない不具合だと考えたのです。ところがラインに駆け付けて、よく確認してみるとそのような生易しい問題ではありませんでした。プロジェクター内部の部品がトップカバーの内側に当たって取り付けられなくなっていたのです。
内部の部品は、複数の部品を組み立てたサブアセンブリーの集合体です。ですので、その組み立て方に問題があるのではないかと考えました。そこで各部品の組み立てをよく調べてみると、送風ダクトを構成する2部品が互いに嵌合していない状態で組み立てられていると分かりました。嵌合できないので高さ方向が設計値より大きくなります。これではトップカバーが閉まらないのも無理はありません。
承認サンプルよりも0.4mmも小さいダクトの嵌合穴
そのプロジェクターは光源にランプを使っており、温度は最高で約1000℃近くまで上昇します。よってその周辺部品は耐熱樹脂を使用したり、ファンを取り付けて冷却したりしています。送風ダクトは効率的な冷却を狙ったものです。
このプロジェクターの送風ダクトは2つの部品で構成されており、片方の部品の先端をもう片方の部品の穴部に差し込んで嵌合する構造になっています。差し込む方の部品は以前から使用していた流用部品でした。急に寸法は変わってしまうなんてことは、まずありません。しかし、差し込まれる穴部がある部品は、今回の新製品のために新規設計した樹脂製部品でした。